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第1話 ハンドルネーム:ペルソナ
三カ月ぶりの更新だ。僕はスマホを片手に早速動画を再生した。
誰もいない音楽室にスマホから流れるピアノ伴奏が流れる。
スマホの小さなスピーカーのせいで音割れがする。構わず流れる音階に耳を澄ます。
これって確か何かの映画の主題歌だったような。
メロディと連打音が美しい曲だ。
ピアノが旋回して展開を紡いでいきながら、徐々にリズムがのってきて、いっきに単音の静かな音に変化してブレイクダウン。
綺麗なのに起承転結のような人を惹きつける曲だな。
ペルソナさんはやっぱり選曲のセンスもいい。
「僕もこの曲練習しようっと」
ペルソナさんは動画投稿をしている僕お気に入りの素人ピアニストだ。
顔出しはせずワンカットで演奏している手元のみがいつも定位置から撮影されている。
映像に写る手を見る限り男の人みたいだけどそのほかの情報は全くわからない。
数ある似たようなピアノ伴奏の映像から僕はなぜかこの人の演奏に惹かれている。
今の時代は便利だ。早速この曲の映画情報を調べ、曲名を調べる。
すると検索一覧には楽譜、作曲者情報、主題歌映画情報が出てくる。
更に検索を進めると素人が作成した楽譜を見つけpdfデータを家のパソコンに送った。
そして原音の曲を聴く。全部で三分三十二秒の曲だ。あとは家と学校の往復。
仕事で夜遅い父がいない間はひたすらピアノを弾き、原音から楽譜を修正し、朝は音楽室で練習する。
休み時間はスマホにイヤフォンをつけて寝たふりをしながら曲をひたすら聞く。
そんなことしていれば友達も作る必要もない。僕にはピアノがあればいい。
練習さえしていればそれでいい。
僕は原曲を覚えながらペルソナさんをコピーするようにアレンジを真似ていった。
曲が身体に染み込む度に彼がどんな人物なのかを想像する。
会ってみたい。この人に。この人にピアノを教えてもらいたい。
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