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第2話 Jazz Morgan
「ここはもっと滑らかに、スピードを付けて、跳ねる様に!」
加賀美サラは僕の母方の伯母である。僕がドイツと日本のクオーターだから、サラはハーフだ。ストレートのブラウンの髪が怒涛と一緒に揺れる。
僕の一回り年上で物心ついたころからピアノの先生だった。
美人だけど、お節介でピアノの事になると少し怖い。そしてサラの一回り年上の姉が僕の母さんになる。
「Stop!! 多衣良もっと集中して、全然出来てないじゃない」
学校から戻ると、この繰り返しだ。僕はこれを十年以上続けている。
「ちゃんと言われた通りにやってるじゃん。何がダメなの?」
今では母親に代って伯母のサラが僕を指導している。
「楽譜のデクレッシェドとクレッシェンドの違いが分かってないのよ」
「強く、弱くやってよ」
「こんなんじゃ、コンクールに間に合わないわよ」
「だから出るつもりないって言ってるだろ」
「じゃあ、なんためにここまで練習してきたのよ」
つまらない。コンクールのためのクラシック、コンクールのための練習。
ここ最近は特にそう思う。ピアニストになるために続けていたピアノが何のためにやっているのか分からない。
母親のために僕はピアノをやっていたのだろうか。
だとしたらただのマザコンだ。
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