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第7話 仕返し
頑なに閉じられた瞼と血が吹き出しそうなほどに下唇を齧らせながら、喉仏が胃から込み上げる吐瀉物を必死に堪えて、何度も上下に動いた。
耳を塞ぐこの人が、このままじゃ、どこかへ引き摺り込まれて、窒息して、そのうち動かなくなるんじゃないかと本気でそう思った。
僕は恐怖で泣きそうになる気持ちを押し込めベッドに上がり耳を塞ぐ手を剥がして大音量のイヤフォンを外し、強く肩を揺さぶった。
「ねぇ、隼人さん、隼人さんって!」
震えた声が制御できず、どんなに声を張ってもスカスカと空気が漏れているような気がする。
汗ばんだ頬をペチペチと叩く。
聞こえているのか不安で何度も名前を呼ぶ。
ゲホゲホと自分の唾液にむせ返りながら隼人さんが起き上がり目を覚ました。
「隼人さん、大丈夫ですか」
すかさず僕は転がっていたミネラルウォーターを渡す。
隼人さんは状況が理解できないようで僕を見て一瞬ビクリと身を竦めた。
僕が泊まりに来たことを忘れていたようだ。
あたりに目配せして額に手を当て呼吸を整え、ようやく僕の差し出した水を受け取る。
「ああ、悪い。俺……時々、眠れないんだ」
隼人さんがこの世に生還した気がして僕は息を吸い込み、震えたため息を小さく出した。
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