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第8話 二枚のチケット

カランカラン――。 やっぱりそうだ。 開いた店内はすでに配置換えが施され、奥にステージが出来上がっていた。 そこにトランペット、サックス、ウッドベースを奏でる異国の三人が練習をしていた。  何度も聞いた、何度も音の出ない机を撫でてきたジャズがまさに目の前に広がっている。 見知らぬ外国人がすでに耳馴染みになったサックスとウッドベースの掛け合いに僕のピアノを混ぜて溶かして、爆発させたい。 「お前、チケット捌いたんだろうな」  横から声をかける隼人さんは、軍手をはめて冬なのに半袖にGパンと肩からタオルを下ろしている。 いつもと変わらない態度でいるのでお礼を言うのも何か違う気がして僕は少しだけ恥ずかしくなった。  「Hey,Taira!! come on!!」  この国土に似つかわしくないアメリカ訛りの英語が飛んできた。 ウッドベースを演奏している見慣れない外国人が僕にピアノを弾けと呼んでいる。 マスターと同年代くらいだろうか、隣にアルトサックスを弾く別の外国人も片眉をあげて僕を煽っている。 店内に響き渡るトランペットを鳴らしていたのはマスターだった。 みんな恰幅があり、マスターのトランペットは少し小さく見えた。 僕はその場にカバンを投げ捨てた。

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