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第9話 Christmas Eve Jazz session

「俺のペン先舐めて興奮した時を思い出せよ」 確かにペンは舐めたけど、隼人さんの甘いド♯の声は嫌でもあの果てた夜を思い出させた。 「こ、興奮なんかしてないし」  反射的にそう答えてしまった。虚勢にも程がある。 「俺は多衣良のピアノに興奮しまくりだ」 弄ぶようにほんのわずかに唇が耳朶に触れた気がして僕は声が出そうになる。 名前を呼ばれると一層あの興奮がフラッシュバックする。 瞬間に身体を離され、ポンと肩を叩かれた。 「行ってこいよ。めちゃくちゃ気持ちいいぞ」 そう言って隼人さんはマスターを真似するようにウィンクをした。 *****  「Ladies and gentlemen……」 マスターのネイティブな英語で挨拶が始まり一気にジャズ独特の大人な空間が立ち込めた。 ざわついていた客席に緊張感が走り、客の視線が一斉に舞台に集まる。 演奏者をそれぞれ紹介し、皆が拍手をもらった。 そして僕の緊張を一気に吹き飛ばすサプライズが起きる。

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