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第11話 僕たちの行き先
隼人さんは春に家庭教師をやめて学校の先生になるらしい。
僕はてっきりウェブマーケティングの会社に転職するのだろうと思っていたけど教員なんて全く想像がつかない。
「隼人さん、本当に学校の先生なんかできるの?ていうか結局最後まで僕にピアノも教えてくれなかったじゃん」
「本気で教えてもらおうとしているお前がどうかしてんだよ」
「なんで学校の先生なの?絶対向いてないよ」
こんな先生いたら、たちまち女子生徒の人気の的だ。
「うるせえな。お前のせいだろ」
「え?なんで」
全く理解できない。首を傾げていると、コーヒーを片手にふっと笑った。
「お前がプロになれなかった時は俺が養ってやるよ」
僕はピアノを止めて立ち上がる。
「それって、プロポーズってこと!?」
「ぶっ!なんでそうなるんだよ」
隼人さんがコーヒーを吹き出した。
「僕も、隼人さんがおじいちゃんになったら一生懸命介護します」
「いらねえよ。いいから続き弾け」
口からこぼれたコーヒーを袖で拭いながら、隼人さんは耳まで真っ赤になった。
僕は笑いながらビル・エバンスのWaltz for Debbyを弾く。
ピアノを通して、音楽を紡いだ僕は様々なものを手に入れた。
もともとあったもの。
舞い込んで来たもの。
自分で掴みにいったもの。
こぼしたコーヒーで隼人さんの白の襟元が茶色に滲んでいる。「ばぁか」と僕に文句を言うと、また小さく笑った。僕もつられて笑った。
彼の隣で弾くピアノは僕をとこまでも自由にしてくれる気がした。
***END***
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