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第5話

「っふ……とつくにでは、ここを弄るそうだ」 「ぅ、やめっ……あ、なに……」  ちゅう、と輝夜が淡く色づいた右の胸の突起に吸い付いた。全身に痺れたような感覚が走り、竜巳は慄いた。女のように盛り上がりがあるわけでもないその突起は、つままれ舐られるうちに芯と熱を持つようになった。 「も、やめ、て……」 「やめる訳がない」  鎖骨、首筋、顎、頬――輝夜の唇がどんどん上へと上がって来る。輝夜は何度もその健康的な肌に吸い付いた。情事の赤い花びらがいくつも首筋に散ってゆく。 「ひゃ、ぁ……!」 「ふふ」 輝夜は花開いた痕を満足げに眺めた後、いたいけな少年の耳朶を食んだ。思いのほか熱い輝夜の唇に、吐息に、ぞくりと肩がはねる。 「ずっとこうしてやりたいと思っていた」  耳元で囁くように言った輝夜は、そっと頬に口づけを落とした。竜巳は身を竦める。 「ずっと、って……!」  何を言っているのだろう、この男は。  声を震わせて尋ねると、輝夜は熱っぽく息を吐いた。 「お前の肌に触れた時から、ずぅっとだ」  悪戯っぽく笑った男が鼻筋をぺろりと舐めた。綺麗な瞳と視線が交差する。熱を帯びた輝夜の瞳は紅を引いたような真っ赤な色をしていた。自分はどんな情けない顔をしているだろう。救われたと思ったら襲われて、どうしたらいいのか分からない。  だんだんと負けん気が首をもたげてきて、やるならやればいいじゃないか、と投げやりな気持ちになってくる。強さを手に入れ復讐を遂げられるならば、安いものではないか。  竜巳は輝夜を睨み付けるように見返した。輝夜がほう、とあだっぽく笑う。 「随分と余裕があるな。ここは早くも限界のようだが」 下肢に伸びた手が、服の上から竜巳の芯を掴んだ。 「っ! おい、っぁ……!」 ゆるゆると扱きあげられると、今までに味わったことのないような快感が迸った。他人の手による手淫は初めてだった。しかしその刺激は極めて弱く、官能ばかり高められて、上り詰めることが出来ない。もっと直接的な、激しすぎるほどの刺激を求めて、無意識のうちに、男の手の動きに合わせて腰が揺れ動いた。 「ふ、くあ……!」 「はは、若いな。いや、幼いのか? もうこんなにして」 もっとしてほしい。快楽が、強い刺激が欲しい。そう願っていると、輝夜の手が直に竜巳のものを握った。 「っ……ひ……!」  にちゃにちゃと芯を擦りあげる卑猥な音が頭を掻き乱す。脳裏は快感を追うことだけでいっぱいになった。腹が立つだとか、傷が痛いだとか、そんなことはどうでもいい。 視界が潤んで何も考えられない。息が荒くなって、心臓が早鐘を打った。 規則的にかくかくと腰を振る竜巳の姿を、輝夜は馬鹿にするように笑った。 「あ、ふ、う……!」 「なんだ、盛った犬のようだな? どうせあの山賊どもにも可愛がられていたんだろう。とんだ売女だな。久しいからといって簡単に気を遣るなよ」 「っぅ、ちが……あ……!」 「何が違う?」 「あ、あ、やっ……」  輝夜の手の動きが激しくなる。違う、仲間内に襲われたことなど無いと言いたいのに、押し寄せる快感がそれを許してはくれなかった。物を奪い合ったりはしたが、仲間内で襲われたことなどない。そんな事を伝える余裕さえ失ってしまっていた。 「ほら、いいか?」 「い、いい……!」  溢れた先走りを潤滑剤にして、絶頂へと追い立てるように反り返ったものを擦りあげる。竜巳は身体をびくりと身体をしならせた。 「っ、あ、は、もう……!」 そう思った瞬間、ぱっと輝夜の手が竜巳から離れた。 「ん、え……?」 「簡単に気を遣るなと言っただろう」 「何で……あ、わ!」  意地悪く言い放った輝夜は、竜巳の下穿きをすべて取り去ってにたりと笑った。 細いながらも健康的な足を割り咲かれ、その両足の間に輝夜の身体が滑り込む。竜巳は腹の底がかっと熱くなるのを感じた。普段人目に触れることなど決してない場所が露わになる。 右太腿の内側、そのしっかりと反り返り蜜をこぼす陰嚢の付け根には、確かに、乱雑に微かに読める程度の筆跡で、佐平――と、そう彫られているはずだ。 「…………ふふ」 「っ」  輝夜がつう、と指で刺青をなぞった。痛みなどないが、こそばゆさと辱めを受けた屈辱感がじわりと蘇る。 「見るな、やめろ……!」 足をばたつかせて嫌がると、真紅の瞳が和毛(にこげ)の中で屹立するそれを見止めて細められる。笑った男はその反り返りをぴん、と指ではじいた。限界まで高められたところへ、淡い快感が全身を走り抜け、竜巳はくっ、と息を詰めた。 「ぁぅっ……!」  まだ達してはいけない。端に残った理性で言いつけを健気に守ると、輝夜は片足を持ち上げて担いだ。 「はは、やはりまだ子供だ。身体が柔らかい。――どれ、次はここだ」  輝夜は嬉しげに呟きながら、その指先で後孔の襞をなぞった。竜巳は身体を強張らせる。 「っ、そこは、ぁっだめ……」 「何故? なんでもするのだろう?」  前をゆるゆると扱きながら、輝夜が葉に包まれた何かを取り出して見せた。 「こんなことになるら、のりか通和散でも手に入れておけばよかった。これはその代わりだ」 「っ……!」  後孔にひやっとした感覚が広がったと思うと、ゆっくりと輝夜の指が奥へ侵入してきた。とてつもない違和感に顔をしかめる。 「力を抜け、つらいだけだ」 「んん……むり、ぃ……!」  指を浅いところで出し入れしたり、曲げたりする。まだまだ快感にはほど遠く、圧迫感と苦痛ばかりが竜巳を襲った。 「先ほどより力が入っているぞ」 「だっ、て、くるし……!」  苦しい。解されている後ろの穴も、出したくても出せないのも。そう涙をこぼす竜巳に輝夜の唇が降って来る。 「こちらに集中しろ」 「ん、んんっ……ふ……!」  なだめるように目元に口づけた後、唇をふさがれた。強引に舌が割入ってくる。噛みつくような口吸いに竜巳は必死で答えた。 舌を絡めあい、輝夜の真似をして彼の歯列をなぞったり、舌を甘く吸ったりした。口吸いがこんなに心地いいものだとは知らず、つい夢中になる。 「ああ手が真っ白だ。ほら、俺に縋っていろ」  必死に毛皮を掴んでいた手を外され、輝夜の肩に両手を回すよう促される。竜巳はおとなしくそれに従い、その逞しい肩にしがみついた。  そうしている内に身体の強張りも解け、後ろを解す指も随分と奥に分け入っていた。 「は、ぁ……指を日本に増やすぞ」 「ん……ふっ……」  じゅるじゅると卑猥な音を立てながら、唇を重ねることに没頭する。早く腰で燻った熱を外に出してしまいたくて、それしか考えられなかった。下からもぐちゃぐちゃと卑猥な音がする。己の垂れ流したような先走りが滑りをよくしているらしかった。 「も、もうだめ、で、る……!」 「それはつまらんな。どれ、そろそろいいか」  輝夜は少し興奮した様子で言うと、自身も下穿きを脱いですっかり立ち上がったそれを後孔にあてがった。  竜巳はいやいやとかぶりを振った。 「む、むり、そんなの入るわけ、ない」 「大丈夫だ。俺も焦らされてもう限界だからな、すぐ終わる」  自身をゆるく扱きながら、輝夜が笑う。言葉に反してその表情は興奮しきっていて、まるで獣のようだった。彼の怒張したものを再び見やって、竜巳は恐怖で震えそうになるのを堪えた。筋の浮いたそれはまるで凶器のようで、己はあれで身体を貫かれて死んでしまうのだろうかと慄いた。 「入れるぞ」 「っ、ま、まって、や、ぁっ……!」  後ろの蕾の襞が押し広げられる。 「ぁあ、ぁぁぁぁっ……!」 「っ、く……!」  太いものがゆっくりと押し入って来る感覚に、引きつったような声が喉から絞り出される。目の前が霞むような圧迫感。それが奥へ奥へと入り込んでくる。  意識を飛ばしかけた竜巳に、輝夜は再び唇を重ねた。 「俺が入っているのが分かるか」 「うあ、や、だ……!」  身体を良い様にされている。にも関わらず、身体は素直に反応してならない。こんなに痛いというのに、輝夜の言葉は的確に竜巳の官能を煽った。  ゆっくりと挿入しているからだろうか、圧迫感と苦しさはあれど痛みは少ない。どうしてこんなにも丁寧に抱くのだろう。不思議に思いながら輝夜の顔を盗み見ると余裕のない表情で竜巳を凝視していた。  目が合った。輝夜は薄く笑うと竜巳の頭を撫でた。 「……っ、はいったぞ」 「……う、そ」 「ああ。お前が俺をくわえ込んでいる」  言いながら、広がりきった穴をぐるりとなぞられた。 にやりと笑った輝夜に、竜巳は息を切らして顔を真っ赤に染める。 「裂けてもいないようだ。安心しろ、もう痛いことはない」 「ふっ、ぁ、あっ……!」  余裕のない表情で、ゆっくりと輝夜が抽挿を始める。  まさか二度も男に犯されるだなんて夢にも思わなかった。男の熱を受け入れ犯されているという衝撃に、もう何も考えることが出来ない。 「ああ、ここはすっかり萎えてしまったな」  ぬちゃぬちゃと、肉と肉がぶつかり合う卑猥な音が鼓膜を襲う。輝夜は少しだけ身を起こして竜巳の中心を握り、焦らすように扱いた。 「あっ、あうっ、だめ、だめだ」  半端に芯の通っていたそこは、今にもはじけてしまいそうなほど反り返りを取り戻す。先端をえぐるように撫でられれば、後ろの圧迫感より前のものの快感の方が勝った。みだらな欲に溺れて、己のものを握る輝夜の手に自分の右手を重ね、一緒に扱いた。 「っ、ふふ、そんなに善いか?」  一度上り詰めかけたのに焦らされたためか、竜巳の理性は殆ど崩壊していた。重ねた手で輝夜が触らない先端の敏感な部分を扱く。 「あ、で、る、がまん、でき、な、ぁっ!」  許可が欲しい。勝手に達してはいけないという言葉が頭の中に残っていて、上り詰めようとする身体を必死に鎮める。竜巳は輝夜の言葉に従順だった。  叫ぶように言った竜巳を欲に溺れた瞳で見下ろしながら、輝夜が根元の方を強く扱いた。 「ああ、いいぞ、先にいけ」  律動が激しくなる。頭の中ごと犯されたように全身を揺さぶられる。  彼の手が屹立したものを強く扱いた瞬間、竜巳は行き場を失った熱を解放した。 「っんっ、あぁぁぁぁぁ……ッ!」  竜巳の精が白濁となって飛び散る。がくがくと身体を震わせて達したその肢体を撫でさすりながら、輝夜はくつりと笑った。 「はは、食いちぎられそうだ……! 女にされて喜ぶとは、とんだ淫売だな」 「…………」  荒い息を繰り返す竜巳に、反論するだけの気力は残っていなかった。  迸った精の残滓を搾り取るように竜巳を扱いた後、輝夜は再びその未熟な身体を揺さぶり始めた。  達したばかりの身体が悲鳴を上げる。もう無理だ、と思うのに体は正直で、竜巳の芯はすぐさま頭をもたげ始めていた。身体と心のずれがひどく苦しくもどかしい。 「ぁ、も、だめ、ゆる、して」 「何を言う。お前の中はこんなに喜んでいるぞ。こんなに硬くして。中も、このあたりがいいんだろう?」 「っひ……!」  そう言って輝夜は自らで竜巳の中のある一点を攻め立てた。そこをえぐるように挿入を繰り返すたび、竜巳の口から悲鳴にも似た情けのない声が漏れた。  膝裏を抱え上げた輝夜が、薄暗い笑みを浮かべて右の太腿を見やり、その内側を撫でた。そしてぽつりと呟く。 「で? 佐平は、どんな風にお前を抱いた?」 「ッ⁉」  冷や水を浴びせられたようだった。それは復讐相手の、竜巳を最初に辱め、消えぬ痕まで残した男の名だ。 屈辱が記憶と共に蘇る。顔から血の気が引いた。 「俺に教えてみろ。お前をどんなふうに犯した?」  それでも身体は正直で、攻めに耐えられず快楽の高みへと上り詰めてゆく。 「後ろから襲ったのか? 痛かったか? それとも癖になりそうなほど善くて、それが癪に障ったのか?」  輝夜はそう責めるように問いながら、ひぃひぃと喘(あえ)ぐ竜巳の身体を蹂躙(じゅうりん)した。 「ちが、あっ、ぁ、うぅっ……」  抽挿(ちゅうそう)が激しくなる。敏感ないいところを突き上げられ、呼吸さえままならなくなった。 「は、ぁぁ、しぬ、死んじゃう、やめ、もう……!」 「ああ、そろそろ終わりにして、やる……!」  前と後ろの快感に打ち震える竜巳の中に、輝夜の熱が注ぎ込まれる。 「っあ――――――!」  輝夜の熱は、上り詰めた竜巳に新たな刺激を与えた。身体がこわばり、びくりと跳ねるのと同時に、竜巳も先ほどよりだいぶ薄くなった精を吐き出した。  覆いかぶさっていた輝夜がぎゅうと抱きしめて来る。  そして耳元で囁いた。 「忘れるな。その憎しみを身体に刻め。あの男ごと――俺を憎め」 「う、え…………?」  へし折れてしまいそうなほど、強く抱きしめられる。身体が痛い。 ――どうしてこんなことになったんだったか。俺は佐平に復讐を――。   朦朧(もうろう)としていた竜巳の意識は、そのまま闇に引きずられるように落ちていった。

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