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第7話

ゆっくりと瞼を開ける。最初に視界に入ったのは、めらめらと燃える炎だった。異様な身体の倦怠感を覚えて身じろぐ。同時に記憶の糸を手繰り寄せながら動こうとすると、軋む身体が悲鳴を上げた。そしてこれまでの経緯を思い出す。  竜巳は真っ青になった。 「……!」 ばっ、と勢いよく起き上がると、それに気づいた男はくすり、と不遜に嗤った。 「随分とうなされていたようだが」 「……」  背筋を嫌な汗が伝う。 ――遠い日の、佐平の夢を見ていた。 あんたのせいだ、などとは口が裂けても言えなかった。  身体の震えを見咎められたくなくて、竜巳はぎゅ、っと両腕を抱いて耐えた。しかし男の竜巳への興味は既に失せているようで、こちらを見る気配はない。竜巳は安堵した。 「まだ俺の弟子になりたいか?」  囲炉裏の火をかき回しながら、上半身を露わにした輝夜が煙管をくゆらせている。薄明りの中でも分かるほど上等な絵付の煙管の持ち手を眺めていると、こちらを向いた輝夜が下卑た笑みを投げてきた。  憔悴しきった竜巳は自らの身体を見下ろして、ぐっ、と唇を噛んだ。輝夜は竜巳を気にした様子もなく、屋根に上ってゆく煙を眺めている。そんな姿さえ美しいのに腹が立った。 「俺は今回のようにお前を抱くぞ、きまぐれに、な」  それが嫌ならば出ていけ。  暗にそう匂わせ、輝夜はまた煙を吐く。竜巳はむっと頬を膨らませた。 「……なる」 「…………へえ」  竜巳の答えが意外だったのだろう。その琥珀色の瞳を細めた輝夜無意識のうちに震えている竜巳を見やって、ふっ、とほくそ笑んだ。身体が震える。再び抱かれることを想像すると嫌悪感がどこからともなく湧いてくる。ひどい男だ、と思った。  竜巳が復讐を望む理由こそ幼い頃に受けた辱めだというのに、この男はさらに己を辱めるという。竜巳は本末転倒な事態に気づきながらも、この男に屈したくないという思いから反対する己を殺してしまったのだった。 「いつまで耐えられるか見ものだな」 「…………」  竜巳はぎゅっ、と拳を握りしめた。背中が痛い。腰に違和感がある。体中が軋んでいるのが分かった。  こんなことでくじけてなるものか。何度この男に抱かれようと、太腿の彫り物が消えることはないのだ。 「俺は、負けない」  輝夜はもう何もけしかけようとはせず、ただ愉快そうにそうか、とだけ呟いた。  今にでもこの男を殴りつけてやりたいのに、身体が思うように動かない。心まで折れそうな今では、この男に敵うはずがない。 夜が更け、やがて朝が来る。それから、頑張ろう。  輝夜がもう何も語らないのを確認して、竜巳は毛皮をかぶり、目を閉じた。

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