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第8話
明け方。
「修業はまだってどういうことだよ! 弟子にしてくれるんじゃなかったのか!」
椀に箸を携えて叫ぶと、輝夜は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしてから、煙草の煙を竜巳の顔に吹きかけた。それと同時に伸びてきた手が、竜巳の肩をぎゅっと握った。
「っ、げほっ、ごほっ、なに、すっ……いっ」
「何が修行だ馬鹿め」
「なっ……だ、騙したのか……⁉」
「そうじゃない。そんな傷を抱えたまま弟子もへったくれもないだろうと言っている。今は養生することに専念して静かにしていろ」
竜巳はぐっ、と言葉に詰まった。輝夜に斬られた傷は塞がりこそしたものの、完治はしていない。濡らせば痛みが走り、傷が開きそうになる。
竜巳は一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後に「わかった」と口を尖らせつつも答えると、椀の中身を啜(すす)った。今日は兎の干し肉の味噌汁仕立てに少しの米と粟を混ぜた粥だった。
――怪我人とはいえ、弟子が師と同じ飯を食ってもいいのだろうか。
山賊の中でも厳しかった上下の関係を思い出し、竜巳は思案した。
輝夜を見やれば、囲炉裏の火をぼんやりと見たまま煙管をふかしている。特に竜巳に師弟としての関係を厳しくする様子もない。変わったな男だな、と思った。従者が主人にするように甲斐甲斐しく世話を焼いたと思えば、有無を言わさず襲い掛かって来る。
明白なことはただ一つ。この男が相当の手練れで、己の師に相応しいのは確かである、ということだけだった。
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