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chapter 01 [farewell]
「それじゃあ、父様お元気で。飲み過ぎは身体に悪いから、できることなら控えてね」
オレンジ色の夕陽が窓硝子を通って家全体を染め上げていく。
時期に深い夜がやってくる。僕は胸の奥にある痛みを感じないようそっと目を伏せて、片隅に置いてある小さなカバンを手にした。それから、十六年という短いようで長い間、お世話になった六帖の部屋を振り返り、深呼吸して玄関へと向かう。途中で目の端にリビングが写る。そこでは恐らくお酒を飲んでいるに違いない。僕はけっして大きすぎず、だけど小さすぎるほどでもないくらいの声を出し、お別れを告げた。
返事がないのはもう知っている。だから返事を待たずに家を出た。
今年の夏は去年よりも暑いように思う。流石に昼間と違って肌を刺すような暑さはないものの、それでもまだ日中の名残はある。時折吹く風はじっとりと生温い。生白い顔や肌にまとわりつく。
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