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赤ちゃんできるかな

 シドニー・C・ハイドとエドワード・ウィルクス夫妻は、とても仲良しの夫婦だ。  夫婦と言っても男同士。しかし、現在のイギリスでは結婚が認められ、祝福される。  そして、子どもも生まれるのだ。  ハイドは穏和で優しい男で、四十二歳。明るく快活な性格だが、どこかひねくれている部分もある。名家の出身にして腕利きの私立探偵で、ヨーロッパ全域で依頼人たちと警察から信頼を勝ち得ていた。  ウィルクスはまじめで一途な青年で、二十八歳。騎士のように凛々しい美男だ。意地っぱりだが、ひたむき。スコットランドヤードで刑事をしていて、SCO1(殺人・重大犯罪対策指令部)では最年少。しかしそのあまりにしっかりした性格のため、すでに頼られがちだ。  ハイドは自分の出生のいきさつからか、子どもができることが怖い。  ウィルクスはその性格のため、しっかりしなければと思っている。  子どもが欲しいかと問われれば、本当のところはよくわからなかった二人。  そんな彼らが、子どもを授かるお話。 ◇赤ちゃんできるかな◇ 「じゃ、じゃあ、今夜はゴムなしでするからね」  いつも穏やかで優しい顔を強張らせ、パートナーにのしかかりながらシドニー・C・ハイドが言った。結婚相手、エドワード・ウィルクスは夫を見上げて、これもまた緊張した面持ちになる。  今夜は月に一度のゴムなしの日。ウィルクスが妊娠する可能性がある、ということだ。  ハイドが緊張したまま、大柄な体でのしかかる。悲壮感すら漂っていた。ウィルクスは裸でベッドに横たわったまま、指の背で彼の頬を撫でた。 「……シド、嫌ならむりしないでください。あなたは、自分に子どもができるのが怖いんでしょう?」  ハイドは覆いかぶさったまま、目を泳がせる。 「で、でも、せっかく夫婦になったし……」 「せっかくだからで子どもつくることはないですよ。あなたは気にしてくれるけど」そう言って、ウィルクスは優しく夫の頬を撫でる。 「おれ、別にそこまで子ども欲しくないし。あなたさえいてくれたらいいんです」  甘い笑顔でささやくウィルクスに内心救われつつ、しかしハイドは思いつめた目をしていた。 「でも、ぼくの遺伝子ときみの遺伝子、そのミックスがぼくらの子どもってことだろう? つまり、愛の結晶だよ。美しく言えば。ぼくの遺伝子ときみの遺伝子の結晶を後世に残すことが、つまりぼくら亡き後もぼくらの愛を存続させる方法で……」 「シド、シド」 「そ、そんなふうに考えてたら頭がおかしくなりそうだよ……!」 「落ち着いて。今夜は心配しないで、ゴムつけてしましょうね」 「う、うう、ごめんねエド……」  いいんですよ、と言いながら、ウィルクスは少し照れた顔になる。 「……ゴムをつけてもいいってなると、あなたは途端に荒々しくなる。だからおれ、ゴムつけてるままでも……」  ハイドは聞いていなかった。ナイトテーブルの引き出しをごそごそ引っ掻きまわし、コンドームの箱を取りだしながらつぶやく。 「きみとぼくの子か……。あー、でも、可愛い女の子だったらいいなあとは思うな……。『大きくなったらパパと結婚するの!』なんて言って……ぼくと娘できみをとりあったりして」 「なかなか幸せそうな妄想じゃないですか」  笑うウィルクスに、ハイドはため息をついた。 「もしそうなったら……おれは頑張って生きるよ」  そうしてくださいと言いながら、ウィルクスは夫の首に腕をまわした。

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