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鉢合わせ

「園長先生だよ」 「えんちぉセンセ⁉ふぅ~ん。れんね、おはなのセンセともなかよしなんだよ」 「お花の先生⁉」 「パパもだいすきなんだよ、おはなのセンセ」 蓮が、また突拍子もないことを口にし始めた。 葵の眉間に皺が寄っていく。 「真生、誰だ⁉お花の先生って?」 「大澤小学校の用務員さん。でも、葵、知らないよな?」 「毎年、『花いっぱい街作りコンクール』で、表彰されている小学校だろ。この前新聞に掲載されていたし、テレビでも放送されていた。若くて格好いいし、いかにも好青年っていう感じで。真生って、ああいうのがいいんだ」 「はぁ?」 「はぁ?じゃないだろ」 なんで葵が怒っているのか全然分からない。 そのくせ、蓮には笑顔だし。 「蓮、ご飯食べて帰ろうか?」 「うん‼」 意外と、多重人格の所があるからな、葵。 っていうか、お前ら、何を勝手に決めてんだ‼ 葵が連れていってくれたのは、幹線道路沿いにあるファミレス。 あまり行ったことがない、と俺が言ったから。 幸せそうに食事を囲む家族連れを見るのが嫌で。 「れんのママは?」息子に聞かれるのがなにより辛い。 蓮はお子様カレー。葵も、蓮に合わせて、サラダ付きのカレーを注文した。 「真生は?」 「蓮、食べるときは食べるんだけど、食べないときは食べないから。何か、匂いに敏感で、自分の鼻が受け付けないのは、基本だめだから、後で注文する」 蓮はめんどくさい。 こだわらなくてもいいことにこだわり、少しでも気に食わなければ、癇癪を起こして。 下手したら、朝から晩まで、一日中泣いている事もある。 「こら、待て‼蓮‼」 じっとしていられないのも、蓮の特性で。 注文するや否や、席を立ち、店内をウロウロと探索を始めた。 俺や葵に掴まり、席に戻っても、また、ウロウロ。 「あっ‼」 蓮が何かに気付き、突然駆け出した。 「蓮、走るな‼」 俺の忠告は当然ながら、息子の耳には届いていない。 そのままの勢いで、ドリンクバーに並んでいた若い男性に突っ込んでいった。 ガッシャーーーン‼ コップが派手に割れる音がして、それまで騒々しかった店内が一瞬静まり帰った。 「すみませんでした」 慌ててその男性に駆け寄り、頭を下げ謝った。 「パパ、おはなのセンセ」 「へぇ⁉」 息子の口から出てきたのは予想もしていなかった人で。 まさかと思いながら、恐る恐る顔を上げてみた。 「迎さん‼」 息子の言った通り、目の前にいたのは、間違いなく彼で。 蓮は嬉しそうに、尻餅をついた彼に抱き付いていた。 「センセ、み~つけた‼」 「ダメだよ、走っちゃ」 迎さんは怒るどころか、終始笑顔で。 そのうち、その視線を俺に向けてきた。 「奇遇ですね」 「あっ、は、はい。まさか、こんな所で出会うとは」 「そうですね」 その時、大丈夫⁉そう言いながら、彼に駆け寄る若い女性がいた。 蓮は、キョトンとして、その女性を見上げていた。 「真生、どうした?大丈夫か?」 葵もすぐ来てくれた。 迎さんと、葵の視線が合い、何故か、険悪なムードになった。 なんで、二人とも、恐い顔をしているんだ?

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