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美男子に化けた幼馴染みとの再会
「蓮、いいか、”えんちょうせんせい”だぞ」
葵と約束した時間に、息子の手を引いて、卒園以来、初めて園舎を訪ねた。
昨日の夜も、今日一日、何度も練習した。
あとは、蓮の口から、”はだかのおじちゃん”が、ポロっと出ない事を祈るのみ。
職員室に案内してもらうと、奥の園長室から葵が出てきた。
今日はちゃんとしたスーツ姿だ。
蓮は、そんな葵を不思議そうな眼差しで見上げていた。
「あっ‼」
ようやく思い出したみたいだ。
「はだかの・・・う”ぅぅぅーー‼」
あれだけ練習したのに・・・。
慌てて、蓮の口を押さえた。
「ごめん、葵」
「別にいいよ。それより、そこに座れ。園児用の椅子だから小さいけど」
窓側に、丸いテーブルと、小さい椅子が四脚。
蓮と並んで座ると、先生が二人、俺たちの前に座り、葵は普通の椅子を持ってきて、長い脚を組んで座った。
「右側が、すみれ組のひとみ先生で、左側が、蓮の補助に回る、大ベテランのみち先生だ」
「嫌だわ、園児先生!大ベテランって、まだ、ぎりぎり三十代ですけど」
みち先生は底抜けに明るくて。
二十代前半のひとみ先生も、笑顔が似合う、優しそうな先生で。
蓮は、興味津々の様子で辺りをキョロキョロ。
でも、なかなか先生達の方へは視線が向かない。
「蓮くん、パパたち、大事なお話しがあるから、先生たちと探検に行こうか?」
蓮を交え、ひとしきり話しをした後、息子を誘ってくれた。
でも、蓮は、俺や葵の方ばかり見てイヤイヤと首を振るばかりで。
しまいには、葵に抱き付き、おうち、かえるの‼と駄々をこね始めた。
「蓮、みち先生と、ひとみ先生と遊んでおいで。それが終わったら、園長先生と、パパと一緒に帰ろう」
「・・・」
蓮はしばらく黙っていた。
でも、葵に頭を撫でてもらうと、途端に笑顔になった。
「じゃあ、いってくる‼」
くるくると、目まぐるしく変わる蓮の気持ち。
さっきまで、あれだけイヤイヤを繰り返していたのに、自分から先生達の所に行った。
「じゃあ、行こうか?」
「は~~い‼」
みち先生と、ひとみ先生の間に蓮。
手を握ってもらい、園内とすみれ組の見学に向かった。
「葵、ありがとうな」
気が付けば、葵と二人きりに。
「あ、あの・・・」
非常に気まずい雰囲気。
「なんだ?」
いかにも不機嫌そうな葵。
蓮に対する態度とまるで違う。
「そ、その・・・」
「だから、何だ⁉」
「いや、その・・・まだ、独身だって聞いて、正直驚いたから・・・」
「はぁ⁉それ、今言う台詞?」
「だって、高校の時、二股、三股は当たり前だったろ。いつも、違う女子と一緒だったし」
「なんだ、妬いてくれていたんだ。嬉しいな」
「そんな訳ないだろ」
聞かなきゃ良かった。
「本命が鈍感すぎて、まっーーたく、全然、気が付いてくれなくて。好きでもない相手とセックスしたって、なんの面白味もない。長続きするわけないだろ?」
「おい‼ここでは、その話しは・・・」
「別に聞かれても構わない」
葵は終始淡々としていた。
真面目な彼の事だ。
今もその、本命相手に苦しい恋をしているのだろうか?
二十年。もしかしたら、それ以上に・・・。
「センセ~~!!」
ガタンとドアが開いて、蓮が勢いよく入ってきた。
父親である俺を素通りして、真っ直ぐ蓮のもとへ。膝の上にちょこんと抱っこして貰い、ニコニコの笑顔に。
「センセは、なんのセンセ⁉」
何だろう。
ものすごく、嫌な予感がする。
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