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蓮の心、親は知らず
二階の自室で、渡された紙を見ながら電話を掛けるとすぐに繋がった。
「あっ、今晩は。迎さんですか?佐田です。今日はどうもありがとうございました」
『佐田さん!?本当に!?』
電話越しでも、彼の声が弾んでいるのが分かった。
『嬉しいです。電話、貰えないかと思っていたんで。あの・・・佐田さん、今度の土曜日空いてますか?』
「土曜日ですか!?あれ、確か・・・午前中・・・」
なんかあったな、そんな事を考えていると、
『午後からは、大丈夫ですか?』
「多分」
『それなら、その日、うちの近くの公園で、蟻の行列と、オタマジャクシを蓮くんに見せてあげたいんですが・・・』
「蟻の行列、ですか?」
『えぇ、学校の花壇でも見る事は出来るんですが、パパが忙しいの、蓮くんちゃんとわかっていて、ずっと見ていたいのを我慢しているんです。だから、とことん、蓮くんに付き合ってあげたいなぁ・・・そう思って・・・』
彼の口から出た意外な話に正直驚いた。
蓮がまさかそんな事を考えていたとは・・・。
まさに、息子の心、親は知らずだ。
『あと、蓮くん、服を着たがらない時ありませんか?それは、蟻も服を着ていないからみたいですよ』
「えぇーー!!そうなんですか!?」
しかも、散々悩んでいたことまであっさり彼の口から出て来て。
『あまり無理強いをせず、温かく見守ってあげましょう。蓮くん、感受性が豊かだから』
迎さんも葵と同じだ。
「あの、迎さん。もし、迷惑でなかったら、俺に色々教えてください。蓮の事」
『えぇ、僕でお役に立つなら、いつでも聞きますよ』
嬉しそうな彼の声を聞いているうち、何だか、俺まで楽しくなってきた。
もっと話しをしたいけど、下で蓮が何やら騒いでいるようだし・・・。
「すみません、蓮が騒いでいるので・・・」
『大丈夫ですよ。あの、佐田さん』
「はい?」
『いえ、なんでもないです』
そう言って彼の方から電話を切ってくれた。
ドタバタと、階段を駆け下りてリビングに向かうと蓮が泣いていた。
「どうした?」
「ボタンがいう事を聞いてくないって泣いているのよ」
「なんだ」
良かった。大したことじゃなくて。
蓮は、ボタンがある服が苦手だ。
なかなか上手に出来ず、癇癪を起すのはいつものことだ。
同じ年齢の子が簡単に出来る事が、蓮には難しかったり、出来なかったり。
やはり、息子の特性に理解ある女性を捜すべきなのだろうか?
再婚・・・それも、考える時期に来ているかもしれない。
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