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俺は廊下に出るなり走って教室の方へ向かう。
人が増えてきたとこでやっと歩く。
ここまで来たら大丈夫だろうと思ってたんだ。
なのに。
「おい…本田…」
びっくりして思わず振り返る。
その手を掴むのは間違えようがない。
「な、成海…」
「お前、俺に何か言いたいこと、あるんじゃないの…」
「ないって…」
「じゃあ…何で泣きそうなんだ…」
何でそんなとこ見てんだよ…。
俺が泣きそうなの何で分かるの。
何でそんなに俺のこと気になんの?
ほっとけばいいだろ…。
「ほんと、何でもないから…ほっといて…」
鳴海は釈然としないって顔をする。
掴んだ腕がより強く握られる。
痛い。
「…離して」
「ちっ…」
離された腕がキリキリ疼く。
俺らの組み合わせなんて滅多にないので、皆が変な目で見てくる。
成海は無言で俺の横を抜けて教室に入っていった。
掴まれた腕をさする。
「いてぇ」
下を向けば涙が出てきた。
いたい…。
なんで、こんなに痛いんだ。
ケータイの電話帳を開いて、女の子の名前を全部消す。
成海をお気に入りに登録する。
意地になってそれらの作業をして、ハッとする。
ああ、そうか。俺、成海が、好きなんだな。
そう結論出したらすっと落ちていくようだ。
俺は妙に納得してどうしようもない想いに涙が止まらない。
成海相手にこんなの伝わらない。
あいつは俺をセフレにでもするんだ。
好きになる対象じゃないんだ。
悲しい。痛い。辛い。
下を向いたまま、教室に戻る。席に戻って、机に頭を伏せる。
「カズ」
呼ばれてうっすら確認してシオであることを理解する。
「シオ…」
「どうした?今度はちゃんと言ってくれるんだろ?」
「…シオ。好きな奴のことでちょっとな…」
「そっか。何か言われた?」
「…あんな最低なやつのことなんか好きになるなんて思ってなかった。それでも好きだと思った。相手は…ぜんぜんそんな感じないけど。むしろ俺をセフレだと思ってる…。俺にとって初恋なのに…始めから辛い」
「そうか。カズも恋か。まだ初期段階だろ。望みあるって」
そうだろうか。
俺は少し笑って礼をいう。
「相談して良かった」
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