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熱帯夜に思わぬ再会
0:00を少し回っているというのに気温も湿度も下がらない。太陽が照っていないのに気温と湿度をキープするなんて真夏の夜のパワーは極悪だ。
ベッドで眠ることを諦めてフローリングに転がってテレビをつけた。こんな時間の番組なんてたかが知れている。リモコンをピコ→NHK。ピコ→Eテレ。ピコ→MRT。ピコ→UMK。宮崎の地上波は民放が2局。ずっとこれで育ってきたから不自由はないし、今はBSだってある。
白井はこのテレビ環境に落ち込んでいた。番組のほとんどに『これはOO月に放映されたものです』というテロップが流れるから。2局で捌ける番組数はしれているから過日放送ばかりだ。
リアルタイムと過去の番組が同じタイミングで放映されることに白井はイライラしていた。ニュースでハリウッド俳優が帰国したことを知った同じ日、「なんと大物俳優OOが生出演!」のテロップをぶらさげた映画のプロモーション番組が放映されたりする。
白井は『気持ちの悪い時間軸だ。帰ったら浦島太郎だな』そう言っていた。ああ……なんだ。帰るつもりだったんだな。俺はてっきり盆や正月に帰省することだと思い込んでいた。もしかして俺が気付くように小出しにしていた?でも俺はそれを全部スルー……もう今更だけど。
UMKの番組は一面の銀世界で雪玉をぶつける集団の映像だった。画面の右隅には「YUKIGASSEN/昭和新山雪合戦世界大会」の文字。そして「これは2月に放映された番組です」のテロップ。
雪の玉をぶつける遊びと認識していたがどうやら世界大会規模になっているらしい。揃いのウエアとヘルメットにスポーツサングラス姿で対戦する選手達は真剣だ。暑い夜に雪を見て涼しくなってください的な番組チョイスだろうか。
北海道……遠いな。直行便はないから乗り継ぎ。千歳までの往復で10万金 が飛ぶ。LCCは夕方の便しかないから関空まで行けても千歳まで辿り着けない。LCC+大手の組み合わせは可能だけど僅かしか安くならないし、金曜の夕方に飛んでも自由になるのは土曜日の1日のみ。日曜はもう帰るだけで一日が終わる。
気まぐれに飛行機を調べてスケジュールを立てた時俺は現実を知った。「何とかなるは何とかならない」まさにそのとおり。遠恋を選んだって会うことすら難しい。金がかかる、そして時間が足りない。
白井は俺に言うべき材料を沢山持っていたのだろう。それを聞いてもたぶん俺は理解できなかった。「何とかなる」と呪文のように言い続けて困らせたに違いない。だからあんな突き放した言い方をしたんだろうな。なんだよ……じわりと滲む涙を手の甲でゴシゴシこする。1年近く泣いてばかりで情けない。
『同僚と観戦に来ました』
聞き慣れた声がテレビから流れた。画面には男女のグループがインタビューを受けている。マイクの前には白井。慌てて起き上がり画面を食い入るように観た。あまり変わっていない白井は真面目な顔をしながら質問に答えていた。
『やってみたいけど雪の少ない地域なんです。生徒とできたら楽しいでしょうね』
ああ、ちゃんと先生になれたんだな。新米教師の白井はモテているに違いない。生徒に手をだして人生を棒に振らないといいが。でも振ったら俺が拾いにいける!
「差し支えなければ教えていただけます?どちらの学校ですか?」との問いに白井は答えた――勤務先の学校名を。
俺は急いでスマホのメモに平仮名で打ち込む。続けて検索をかけるとあっさり学校は見つかった。そうか、お前はここに住んでいるのか。
町役場のホームページに始まり、白井タウンを巡る旅をしているうちに、熱帯夜のことも気持ちの悪い湿度のこともすっかり忘れてしまった。
やっぱり俺は白井が好きだよ。どうしたらいいのかわからないけど、俺はお前が好きだ!!
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