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 真夜中でも眩しく騒々しいネオン街。  周りを見渡せば、夜の商売を営む艶やかな男と女で溢れかえっていた。鼻を伸ばして嫌らしい笑みを浮かべた酔っ払いがうろつき、路地裏の闇の中には獲物を狙う獣たちが息を潜めている。 「本当にこんな場所にいるのか?」  三年前、とある有名男子校で生徒会長を務めていた酒本涼太(さかもとりょうた)。彼は当時自身の親衛隊長を務めていたニつ年上の先輩・田上京一(たがみきょういち)を捜している真っ最中だった。 ※  ――京一は育ちも容姿も平凡だが底抜けて明るく、陽気で快活な男だった。しかも家事全般と細かい気配りができる器用さを併せ持っていたので、クラスメートからは「オカン」というあだ名で呼ばれ慕われていた。そんな彼には憧れの人物がいた。  涼太だ。  涼太は「抱かれたい男ランキング」という投票で、二年間ナンバーワンの地位を独占していた風紀委員長を、学してからたった一ヶ月という短期間で負かすほどに容姿が整っていた。しかも学園始まって以来の最年少で、生徒会長の座に就くという快挙を成し遂げた人物であった。  だから学園内で彼の名前を知らぬ者は誰一人いないというほどに有名で、まるで人気アイドルのように扱われていた。  その為京一が涼太に近付くのは大変難しかったのだが、持ち前の前向きさと健気さを全面的に涼太やその親衛隊メンバーにアピールし、あっという間に彼の親衛隊へ加入。いつの間にか隊長の座にまで上り詰めてしまったのだ。  最初は言葉を交わすことも全くなかったが、共に時を過ごすうちに涼太は京一の優秀さと主人にどこまでも従順な忠犬ハチ公のような態度が大層気に入り、いつからか彼を傍らに連れ歩くようになった。ニ人は次第に互いを思い合うようになり、学園公認の恋人となった。  口をきくことさえ許されなかった愛しい天上人を手に入れて京一は幸せ絶頂の真っただ中だし、涼太は自分の一挙一動で子供のように表情をコロコロと変える京一のうぶな態度に心を満たされた。甘い雰囲気を醸し出す幸せそうな二人を学園の生徒達は温かい目で見守っていた。  そんな平穏な日々がこれからも続くと誰もが思っていた。  だが、事態は一変する。  突然台風のごとくいきなり学園に現れた理事長の甥っ子に、なんと生徒会メンバー全員が恋をしてしまったのだ。しかも彼らは転校生の恋人の座をかけて争い始めたので生徒会の機能は停止し、学園は混沌の渦に巻き込まれてしまった。  涼太も恋人である京一の事、学業、生徒会の仕事、親衛隊の統率、すべてを放り出し、ないがしろにした。  結局転校生の恋人の座を勝ち取ったのは涼太で、美しく愛らしい少年と学園内での絶対的な権限を手に入れた事に有頂天になった彼は、転校生が邪魔だと思う者たちに対して強制的に制裁を行った。適当な言い掛かりをつけて風紀委員長をリコールし退学まで追い詰め、自分に従っていた親衛隊を無理矢理解散させ、転校生に暴力を奮おうと企てた連中を社会的に抹殺したのだ。  何故か自身の心にわだかまりが残り、やるせない気持ちになったが転校生からの甘い口付けを受けた思考は停止され、払拭できない違和感は頭の隅へと追いやられた。  けれど違和感が消え去ることはなく、むしろそれは日が経つほどに染みのようにどんどん広がっていって涼太の心を蝕んだ。  確かに転校生は大変見目麗しかったが家事はさっぱりできないし、人に気配りをする事がなかった。それどころか涼太の邪魔ばかりして何か問題を起こしても実家の財産を用いて解決しようと試みるばかり。  その姿はお金持ちで世間知らずなわがまま坊ちゃんそのもので、プライドが高い涼太とは一切反りが合わなかった。二人は水と油のように相容れず反発しあったのだ。  「愛らしい転校生」――そのイメージは涼太の中で徐々に崩れていった。  そのせいもあってか、かつては京一を(あえ)がせた自慢の分身が転校生相手にまったく勃たなかった。それどころか転校生に体を触られるだけでぞわぞわと鳥肌が立ち、嘔吐してしまう状態にまでなってしまったのだ。 ※  そんな事が何回も続いたある日、涼太は転校生が生徒会室で副会長とまぐわっている姿を発見してしまう。  しかも、その姿を目にするのは一度で済まなかった。転校生は会計や庶務、顧問とも淫らな行為をしていたのだ。  何度もどうしてそんなことをするのか問い詰めるが、その度に転校生はひどく逆上し涼太をなじった。  転校生は愛されたがりの淫乱(ビッチ)だったのだ。  涼太はとうとう堪忍袋の緒が切れて、転校生のことを強く非難した。二人は汚い言葉で互いを罵り合い、容赦なく殴り合った。  結局、彼らは一週間という短い交際期間を経てあっけなく別れた。  涼太はこの出来事をきっかけに京一がどれだけ自分に尽くしてくれていたのかその大切さを身をもって知った。彼は元・親衛隊副隊長を務めていた自身のお目付役である志村(しむら)の元へと向かい、京一の居場所を尋ねた。  もう、何もかもが遅かったとは知らずに……。  従者は主が愚行を働いていた際に、京一の身に起きた不幸について告白した。

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