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「田上先輩はお父様が勤めていらした会社を転校生の父親によって倒産させられ、退学しました。逃げ出した上司達に多額の借金を押し付けられ、思い詰めたお父様は自殺をお母様は1円でも多く借金を返そうとして過労死したようです。学園を去ったその後ヤクザに捕まり、消息不明だと聞きました」  自分が転校生の尻を追いかけている間に京一がいなくなってしまった。  彼が殺害され、もうこの世にいないかもしれない。その事実を知り、涼太は奈落の底へと突き落とされた。  だが、やはり酒本涼太という男はただ苦渋を味わうだけの毎日を送るような人物ではなかった。  三年に進級し、生徒会を退いた彼は死に物狂いで勉強した。  京一が本当に亡くなってしまったかどうかを自分で確かめる為に、外の世界へ飛び出す事を決彼は意したのだ。エスカレーター式で大学へ進学する事が決まっていて毎日遊び狂うかつての生徒会メンバーから酷い嫌がらせやいじめを受けても、そんなのどこ吹く風で屈することは決してなかった。  無事、他県の大学に合格した彼は“世間を広く見る目を養う為の社会勉強をする”と言って親許を離れることに成功した。  志村は涼太が真面目に勉強し、恋人を作って部屋に招き入れるようなことをしなければルームシェアの相手となり京一の手掛かりを探すと宣言した。  涼太は、今までのチャラチャラしたギャル男のような派手派手しい服装は止め、Tシャツにジーンズといったシンプルなスタイルをするようになり、ブリーチして痛みきった髪を切ると黒く染め直して、ストレートヘアに戻した。  態度ももちろん改めた。真面目になった彼は授業をサボることも、だれかれ構わずナンパしたり、喧嘩をするような事は一切止めたのだ。  それは、今まで京一という恋人がいながら転校生に現を抜かしたことへの懺悔であり、彼だけを愛しているという誓いであり、再会できるようにとの願掛けだった。  十二月も終わりが差し迫った寒い夜。  志村の必死の情報収集により、驚く事に京一が今も生きていることが判明した。 「田上先輩はどうやらこの地区にいるみたいですよ」  読み上げられる住所を聞いて涼太は、これでもかというほどに目を大きく見開く。 「それって、ここの隣町」 「そうです。しかも場所によっては治安がかなり悪いしヤクザや暴力団が幅をきかせているところです。まあ安心してください」  志村はソファーに転がってスマホをいじり、緊張感のないのんびりとした口調でしゃべり続ける。 「田上先輩は学園を去った後、自分の親戚である堅気のヤクザに拾われて別の学校に転入したみたいですよ。そこを卒業するまではバイトをして、その後は就職しています。それなりに真面目に働いているみたいですよ。……ただ素行はよくないですよ」  その言葉を聞いて涼太は疑問符を頭に浮かべ思わず首をひねった。 「ホストをしてるみたいです。結構売れっ子で男女どちらからもモテモテ、お持ち帰りされた人は数知れず」 「まさか、そんな事、京一に限ってありえない! デタラメを言うな!!」  涼太は田神に対して怒鳴り声を上げ、衣装ケースから藍色のピーコートと黒いマフラーを引っ掴んだ。 「こんな雪が降っている夜に一体どこへ行こうと言うんです?」 「お前の言った住所を頼りに京一を探す! 直接あいつに会いに行くんだ!!」  志村は玄関でブーツを履いている最中の涼太の肩を掴んで、スマホを目の前に突き出した。 「今更会ってどうするんですか。向こうはもう、涼太さまのことなんか忘れて他の人と付き合っているかもしれないんですよ? てゆーか京一先輩、本当はこんな感じの人なんですけど、それでもいいんですか?」  画面には派手なスーツに身を包み、シャツを胸元まではだけさせた金髪の美形が映っていた。  露出度の高いドレスを着たプロポーションのいい美女の腰を抱いて微笑んでいたり、裸でシーツを手繰り寄せて顔を真っ赤にした美少年とキスをしている。 「この男は……誰、なんだ?」  涼太は顔を青くさせ全身を(おのの)かせ、志村はいい加減うんざりしたと言わんばかりの様子で気だるげに答えた。 「お願いですから現実を受け止めてください。この写真に写っている男は田上京一本人です」 「馬鹿を言うな! だって京一は可愛いかったし、誠実で純粋だった! こんな男が京一なわけがない! 何かの間違いだ!!」  涼太はただ頭ごなしに反論する事しかできなかった。京一が自分以外の者に触れている現実を受け入れたくなかったのである。 「貴方は先輩に騙されているんです。あんな人、いつまでも追いかける価値なんてないんですよ。……涼太さま!?」  涼太は真剣に話をする志村の言葉を最後まで聞かず、目の前にある薄い体を突き飛ばした。いきなりのことに驚き志村はそのまま床に激しく尻餅をついてしまう。  涼太は痛みに耐えながらも何か口ずさもうとする志村を顧みず、乱暴に扉を開いて外へ飛び出していった。 (こんなに人がいっぱいいるところから京一を探すのは難しいよな。だけど今更志村から店の名前を聞いたり、京一のいそうな場所を教えてもらうような恥ずかしい真似はしたくないし。でも……)
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