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 そんなことがあってから一週間が経った。  ジャックの携帯に電話をかけても全部留守電になってしまって一向に会えない。これってやっぱり、ふられたってことなのかな?  あー、考えるな! 今はバイト中だし、悲しくなってへこんでるのが表情や態度に出てると|あ《・》|い《・》|つ《・》にグチグチ言われるぞ。すると噂をすればなんとやら……目の前をとことこ歩く闇野と目が合った。やつは何か悪巧みをしたガキのような笑みを浮かべて俺のところへまでやってきた。 「よう、何だお前ミイラみたいに干からびてんじゃねえか! どうしたんだよ、宇都木」 「絡まないでくださいよ。いつも通りに仕事してたしミスもしてないんでしょ、ヤブの先生」 「てめえ……俺はヤブ医者じゃなくて闇野だっつってんだろ。わざとまちがえてんじゃねえよ!!」  ジャックのことでさ……ひとつだけ謎(?)があるとしたら、なんでジャックはこいつに俺を紹介したのかっていうところだよね。  ギャーギャー喚くおっさんの声が聞こえないように、両手で耳を塞ぐ。  この医者、確かに腕はかなりいいし、医療事務の資格も持ってないような高卒を雇ってくれる一面もある。お給料それなりにもらえて、生活していくのにすごく助かってるしありがたいよ。  けど、けどね。  患者さん達が「先生は、お医者さまとしては素晴らしいけどちょっと子どもっぽいのよね」って苦笑い浮かべるし、過去に雇った事務のアルバイトを辞めさせたっていうよくない噂聞くんだけど。 「しけた面して受付やってたのをこっちが見てないとでも思ったか? お前の陰険な顔見たら患者の病気が悪化しちまうんだよ。アルバイトだからって舐めた真似してんじゃねえぞ。クビにすんぞ。クビだ、クビ! オラ!! クービ、クービ」  音頭を取りながら、手を叩いているこいつの精神年齢、何歳よ。 男はガキだってよく女が言うし、実際頷けるところもあるけど……大人としてどうなの、この態度。なんか、こういう大人にだけはなりたくないなーって、反面教師に丁度いい対象なんだよね。こいつを親にもつ子どもがいたりしたら大変だろうな。 「先生、そうやってガキっぽいことするのは止めてくださいって何度も言ってるじゃないですか」  うわあ、日比野さんの容赦ない足蹴りが闇野の弁慶の泣きどころに思いっきり入ったよ。結果――闇野はその場で蹲りながら痛みに悶え唸り声を上げるという図ができあがった。  俺はその光景に口元を歪め、思わず自分の脛を手で摩った。お疲れ様です闇野先生。 「でも確かに先生が言う通り、今日の宇都木くんには元気がありませんよね。……何かあったんですか? 僕でよければ、相談にのりますよ」  叔父さんはこの世を去り、従者や委員長達とは連絡を取れない。先生はお客さんだから相談することに気が引けるし、ジャックは当事者(第一音信不通……)だから無理。話を誰かに聞いてもらい助言を得ることができなくなり八方ふさがりの俺は、日比野さんの好意に甘え|権兵衛《ジャック》との間で起こったことを掻い摘んで話した。 「え、と。その、権兵衛とちょっと言い合いになっちゃって」 「うん」 「それ以来避けられちゃってて、どうしたら仲直りできるかなって……」 「やーい、ざっまあ! ははっ、ノケモノー。お前だけ仲間外れ、蚊帳の外」  闇野はよろけながら立ち上がると大声で叫び、 「権兵衛はな、俺とこいつと一緒に昨日の夜焼き肉食ってたんだよ! この写真が目に入らねえか?」  国民なら一度は目にしたことがある、長寿時代劇の紋所でも見せつけるみたいにしてスマホを突き出してくる。そこには焼き肉を頬張る日比野さんとその横で、肉や野菜を焼いているジャックの姿があった。 「どうだ、悔しいだろう!」  うん、普通に悔しいわ。この性悪小学生男児みたいな発言をし続けるおっさんに沸々と怒りが湧いてくる。もう、一回ぐらい背負い投げしてもいいかな?   有段者が一般人に、そういうことはやっちゃいけないって委員長にも叱られた。けど、俺の堪忍袋の緒がいい加減切れそう。……いやいや、駄目だって。抑えろ。そんなことしたら前と変わんないじゃん。こいつと同じレベルに下がるな。我慢だ、我慢しろ!  そうやって脳内会議をひとりでしていると、いつの間にか般若みたいな顔をした日比野さんが闇野に野次を飛ばしていた。 「先生、いい加減にしてください。その日はあなたが勝手に飛び入り参加したんでしょ。僕のスマホを勝手に見て偶然を装って。宇都木くん、この人肉に釣られてやってきただけですから気にしないでください。本当は僕と権兵衛くんだけで食事をする予定だったんです」 「なんだよ、日比野くん。邪魔すんなよ!」  日比野さんは額に手を当て重い溜め息を吐き、げんなりした様子で闇野に向き合った。 「先生、どうしてあなたはそうやっていつもふざけてばかりいるんですか。もういい加減にしてくださいよ」 「なんでだよ。これは俺なりに宇都木のことを心配して声かけて……」 「それ逆効果ですからね。全然心配してる感じが伝わってきませんよ」  何故だろう。日比野さんが闇野に説教するのはいつものことだが、今日はなんだか妙にカリカリしているような印象を受ける。彼、いや彼女? らしくないなと首を傾げる。

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