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第伍話 鬼の家族に御対面
襖を開けて外へ出ると、立派な和風の庭が広がっていて、その豪勢な雰囲気に感嘆する。
「庭、凄いな」
「あー、まあ確かに普通の家よりは豪勢だな」
「……朔って実は金持ち?」
「一応その部類には入ると思う」
外見がこんな完璧な上に、家が金持ちとか……いや、まだ勉強が出来ないかもだし、運動音痴かもしれないから、まだハイスペックだとは言えない。
でも見た目的にハイスペックっぽいんだよなぁ。って見た目で判断しちゃダメだろ俺。
しばらく木の廊下を歩いていくと、他の部屋より大きな襖の前で朔が止まった。
何か地味に緊張してきた……。
朔みたいな鬼に会うのは、今まで触れ合ってきた妖とは違う。
断然朔達の方が身体的にも妖力的にも絶対に強いから、その分俺の感じてきた妖力と威圧感とかもまた違うだろうし、何より俺は朔に出会うまで、人型のちゃんとした鬼に会ったことがなかった。
なのにこれから鬼の家族と会うとか、緊張しない人なんて殆どいないんじゃないだろうか。
「緋色、落ち着け」
「うぇっ!?なっ、何で!?何で分かった!?」
「緋色は顔に出すぎなんだよ」
そんなに分かりやすかったかな、俺。
朔は優しく笑いながら、襖の取っ手に手を掛けた。
「さ、入るぞ。緋色」
「ちょっ、まっ__」
俺の焦った声も聞かずに、朔はいきなり戸を開く。
その時、俺は目の前の光景に目を見開いた。
居間には八人の鬼が、木の長机を囲うように座っていた。朔と同じ人型の鬼が八人もいることに驚いたが、それよりも驚いたのはその鬼達の周りを更に囲う人型の妖達だった。
ざっと数えただけでも20人はいる上に、始めて見る妖の人型だったから、朔の時と同じくらい驚いていた。
しかも扉が開く音を聞いて、全員が此方へ視線を向けてくるから、さっきから胸が大きな鼓動を鳴らしている。
「あら朔。遅かったねえ」
緊張感が漂う静寂な室内で、平然と一人の女性が話し掛けてきた。
女性は朔と同じ綺麗な黒髪を腰辺りまで伸ばして、前髪を紫睡蓮の簪で止めていた。紫藤の刺繍が入った白の着物の上に、濃い紫色の羽織を羽織っていて、艶やかさと清楚さが混ざったような何とも不思議な雰囲気を持っている。その上頭から二本の赤い角が生えていて、妙な威圧感も出ている。
「ごめん。母さん」
……母さん!?え、お母さんなの!?こんなに若そうなのに!?高校生って言われても納得しそうなくらいなのに!?てっきりお姉さんかと思ってた……。
でも良く良く顔を見ると、確かに九十九と似ているし、髪も同じだから納得がいく。
「ん、別にええよ……そんで?そちらの方はどちらさん?」
「うぇっ、ひ、緋色です!!」
「?緋色ちゃんは名字ないん?」
「あ、雅楽川!!雅楽川です!!」
「綺麗なお名前やねえ」
ビックリして滅茶苦茶噛んじゃった……。
というか、今緋色ちゃんって呼ばれたんだけど……。
「母さん。一応言っとくけど、緋色は女の子じゃない」
「あ、そうなん?そら、かんにんなあ。どおりで女の子にしては髪が短いと思ったわ。でも緋色ちゃんって気に入ったからこのまま呼んでもええ?」
「ど、どうぞ」
「んふふ。そないに緊張せんくてええよ」
クスクスとお上品に笑う朔のお母さんの目尻には、良く見ると赤い紅がさしてあって、細められた目の隙間から見える赤い瞳と相まって、元からの優美さをより際立たせているように見えた。
俺、女の子だと思われてたんだ……ちょっとショックかも……。
「鈴 」
「ああ、つい話し込んでしもた。さあ、どうぞお席に」
座っていた黒髪の男性が、朔のお母さん__鈴さんを呼んで話を中断させた。
鈴さんに案内されるがまま、空いていた席に二人で座る。
座ったはいいけど、これから何を話すんだろう……。
「……緋色くん、と言ったかな?」
「あ、は、はい!!初めまして!!」
「はい、初めまして。僕は銀 、朔の父親だ」
この人も朔のお父さん!?鈴さん同様凄く若そうに見えるのに……鬼だから成長スピードとかが違うのかな。
朔のお父さん__銀さんも黒髪と赤い瞳を持っていて、爽やかなイケメンっていうような感じだ。朝顔の柄が入った青の着物を着ていた。朔と同じくスタイルが抜群に良くて、着物が良く似合っている。
「それで緋色くん」
「は、はい!」
「君の事は朔から良く聞いてるよ」
「え!?」
「人にほとんど無関心なあの朔が、君の話をし始めるとあまりにも嬉しそうにするからなあ」
「父さん……」
鈴さんと違って、銀さんは男らしい豪快な笑い方をするものだから、少し驚いた。
対して朔は少し恥ずかしそうにして、お父さんの方を軽く睨んでいる。
「ごめんごめん。ついうっかり話がそれてしまった」
「貴方」
「えー、では取り敢えず、僕と鈴以外の自己紹介をさせて欲しい」
「あ、はい」
「そして一応緋色くんも改めて自己紹介をお願いしたい」
「うぇっ!?わ、かりました!」
「ありがとう……じゃあ、時計回りにいこうか」
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