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第肆話 会いに行きましょう

 ……あれ?  身構えたはいいものの、一向に唇に触れるあの柔らかい感触がない。  目を開けようとした時、頬に柔らかいものが触れる。  突然の事に、驚いて目を開けると、朔が意地悪そうな笑みを浮かべて、此方を見ていた。 「ふぇ……?」 「されると思った?」 「っ!?」  そう言って意地悪げに笑う朔を見て、俺は恥辱で顔を真っ赤に染める。  か、からかわれた!! 「さ、されるだなんてお、思ってない、し」 「目が凄い泳いでるぞ」  また笑い出して来たので、軽く睨み付けてやっても、全く気にせず笑っている。  その態度に少し腹が立って、朔から顔を背ける。 「緋色」 「……」 「こっち向いてくれ」  うっ……そんな声出さないで欲しい……。  つい声に釣られて、少しだけ顔を向けると、朔の手が優しく頬に触れてきた。  ゆっくりと朔の方へ戻されて、赤い瞳と視線を合わせる。  朔は先程の意地悪げな笑みではなく、優しい穏やかな笑みを浮かべていた。  そんな笑顔があまりにも綺麗で、つい見惚れてしまう。 「緋色」 「さ、く……」  そのまま朔の顔が近付いてきて__ 「主!!主!!」 「お客人目ぇ覚ましたー!?」 「「!?」」  突然襖がスパーンと勢い良く開いて、俺と朔は肩をびくつかせる。  慌てて襖の方を見ると、小学生くらいの元気のよさそうな少年少女が立っていた。  え……誰……!?角が生えてるって事は鬼か……?  そう考えていると、朔に思い切り布団を押し付けられて、目の前が布団の白色で染まる。 「ちょっ、何す」 「(きい)……(しい)……」 「ひょっ!?」 「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」  朔の不機嫌そうな声が聞こえたかと思うと、嵐が去るかのように襖が、凄い音を立てて閉じられた。  そして朔が布団を持つ手の力が緩んだため、俺は勢い良く顔を布団から出す。 「っ朔!!何すんだよ!!」 「ああ、ごめん。アイツらに今見られると、色々と厄介な事になると思ったからつい」 「?どういう事?」 「……その内分かる」  その内分かるってどういう事だ?  頭に?が浮かんだが、朔はそれ以上教えてくれそうにないので、俺が質問する事はなかった。 「さて、そろそろ行くか」 「え?何処に?」 「一応挨拶くらいは、しに行かないといけないだろ?」 「……まさか朔の家族に会いに行くって事?」  朔はうんともすんとも言わない代わりに、ニコリと綺麗な笑みを浮かべてきて、それが肯定を意味している事が分かる。  え、待って、それって俺大丈夫なのか?  だって朔の家族って事は、つまり皆鬼って事だろ?  そんな中に人間の俺が入っていったら、どうなるんだろうか……。 「お、俺、食われたりしないよな……?」 「ふはっ、さすがに食われたりはしないから安心しろ」  少し怖がっていた俺が面白かったのか、吹き出すように笑う朔を軽く睨み付けると、ごめんと少し笑いながら謝ってきた。 「何だよ、そんなに俺が面白いか」 「嗚呼、でも同時に可愛いとも思った」 「っ!!……お、俺は可愛くない!!」  さらっとそんな事を言われて、顔が熱くなるのを感じる。 「よし、緋色行くぞ」 「あ、うん」  差し出された手を取って、ベッドから出てから立ち上がった。

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