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第参話 取り敢えず状況説明と参りましょう

 懐かしい夢を見ていた。  まだ幼い俺が、鬼ごっこをしている。  あまり覚えていないが、走って走り回った事が楽しかったのは覚えている。  そして捕まって……あれ?誰にだ?上手く思い出せない……。  あ、そうだ。あの子の名前は確か__ 「__緋色」 「っ、ん……」  俺の名前を呼ぶ綺麗な声を聞いて、パチリと目を覚ます。  嗚呼、心地良い。  頬を包む温かい手にすり寄る……ん?手?誰の? 「っどわぁ!!」 「何だ起きたのか、緋色」 「朔……って此処何処!?」  慌てて飛び起きて、少し頭にクラっと来たが、そんな事はこの際どうでもいい。  問題は俺の目の前に広がる景色で、先程の公園ではなく、和室だったのだ。  和室といっても俺が今寝ていたベッドは、現代らしい茶色と白を基調とした木のダブルベッドで、周りも襖などはあるものの、ペンダンライトやテレビなどがあるため、どこか現代っぽさを感じる。 「ここは俺の家だが」 「何、さも当然の様にそんな事言ってるんですか!!……ってまあ、取り敢えずそれは良いです。それで?何で俺は此処にいるんですか?あと朔の声が普通の声なんですけど」  今まで俺が常に聞いてきた妖の声は、人と違うものだった。声の感じ的には大体一緒なのだが、頭に直接響いてくるような不思議な声だったのだ。  しかし今となっては人と全く同じように聞こえる。 「一番の理由は緋色が倒れたからだ。まあ、そもそも緋色を此処に連れてくる予定だったがな。それと俺の声が、普通に聞こえるのは此処が人の世ではないからだと思うぞ。あと敬語は使わなくても良い」 「あ、う、うん」  年上の人だと思ってたから敬語使ってたけど、朔がそう言うなら別にいいか。  ……というかそんな事よりちょっと待て、今色々と衝撃的な事を聞いた気がするぞ。  そもそも此処に連れてくる予定だった?此処は人の世じゃない?いやまあ、連れてくる予定だった事については縁契りってやつを交わしていたのと、迎えに来たって朔が言ってたから分かるけど、問題はその次だ。 「え……俺、死んだの……?」 「いや、死んではない。あくまで俺達の世へ連れてきただけだからな」  何だ良かった。てっきり、いつの間にか骨折みたいに、知らぬ間に死んでたかと思った。 「死者じゃなくても来れるもんなの?」 「流石に地獄や天国へは特例でもない限り、連れては行けないが、この世に連れてくるのはちゃんと代表者達に申請して許可を貰えば、良い事になっている」  天国とか地獄ってやっぱり存在するんだ。まあ、妖がいる時点で何となく分かってたけど。 「質問ばっかりで悪いんだけど、代表者達って?」 「各種の妖をまとめている者達の事だ。あまり人の世からポンポン人を連れてくると人の世が崩れるし、人喰の類が人を連れてきて、大量殺人なんてされると、大変な事になるからな」  なるほど。人の世と妖の世は、ちゃんと均衡を保っているわけだ。  だから人の世で人が消えるって事を都市伝説くらいでしか聞いたことないわけだ。 「とまあ一区切りついた所で緋色」 「ん?どうした、の……?」  話が一旦終わった所で、突然朔が顔を近付けてきた。  あまりにも唐突だった為、俺は固まってしまう。 「あ、あの……」  ち、近い。凄く近い……でも良く見てみると、睫毛凄い長いし、肌がきめ細やかだし、やっぱり凄い顔が整ってるなと思ってしまう。 「緋色」  低くて甘い声で、俺の名前を耳元で呼んできて、ぞくりと体が震える。  顔にどんどんと熱が集まっていくのを感じる。  俺きっと今、顔真っ赤だろうな……。  頬に優しく手を添えられて、若干俯きがちだった顔を上げさせられた。 「緋色、顔真っ赤」 「っ!!」  優しく笑う朔を見て、胸が高鳴る。  更にその笑みの中にある真っ赤な瞳にも見惚れてしまった。  お互い無言になった時、朔の顔が近付いてきて、俺は反射的に目を瞑った。

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