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第32話
「嫌?……嘘だろ。お前勃ってるよ」
「っ!!」
嘘だ……!そんな筈ない!
そう思ってはいても、勃ってると断言されればそうなのかと思ってしまい、結空は股間部分を両手で覆い、肩を縮めて膝を折る。一瞬緩んだ曽根崎の腕をするりと抜けた。
そのままその部分を隠すようにして地面にぺたりと座り込んだ。
曽根崎の言った通り、結空の手には布越しに形を変えた結空の性器が隠されていた。
「ちゃんと、薬飲んだのに……」
どうしてだ?
「だからー……半信半疑だったけどこんな所でも会えたしなぁ。今お前発情期なんだろ。俺とお前、番になれってことだよ」
座り込んだ結空の隣に曽根崎がしゃがみ込む。
そのしゃがみ方がコンビニにたむろするヤンキーみたいで結空は眉根を寄せた。
「ヤンキーは嫌いだ」
「ヤンキーって俺の事か?嫌い?本当に?」
「っ!」
くいっと半ば強引に顎を掬われ、曽根崎が結空の顔をじっと食い入るように見詰める。
綺麗な二重のきつい目が曽根崎の何かにかき乱されている結空を映した。
「ヤンキーやめりゃいいってことか?」
「は?何それ。曽根崎がヤンキー辞めようが続けようが、俺は誰とも番になんてなる予定ないから」
結空は顔を背けて曽根崎の手から顎を外す。
「お前ほんっと可愛くねぇな。生意気なんだよΩのくせに」
「Ωのくせにって……すげー上から目線なんだな。Ωだってちゃんと平等に権利を与えられた人間だよ。それに俺第一曽根崎のことなんか何も知らないし。一回ヤったくらいで番とか、俺の人生狂わせるようなこと言わないでくれる」
「くそ生意気」
「ぁっ」
結空の景色が一瞬にして変わった。目の前に広がる一面の青い空と、覆いかぶさる不機嫌な曽根崎の顔。
結空は草の上に押し倒された。
こんな所で襲うつもりか、こいつ……!
そんなことしたら一生、絶対の絶対に許さないんだからな……!!
結空は最大級の警戒心を剥き出しにして曽根崎をキッと睨みつけた。
けれど胸の高鳴りが止むことはなく顔は火照ったまま、結空は目を潤ませる。
そんな結空に曽根崎が怯える筈もなく、結空の言動に苛立つ素振りを見せることもなく。
どういう訳かどんどん曽根崎の整った顔が近づいてきて、堪らず潤んだ目を閉じた。
「ん、ふっ……」
冷たそうに見える顔に反して、曽根崎の唇は熱かった。
結空は曽根崎に押し倒されて唇を奪われたのだ。
……これが結空のファーストキスだった。
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