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第31話

「は、離せよ、……っ」 曽根崎の胸から花のような香りがして思わず結空は息を止めた。 香水とは違う脳を刺激する香りはαである曽根崎独特のものだ。きっとこれは汗の匂いだろう。 これ……、だめだ。体の力が抜けそうになる……。 嗅いじゃいけない匂いだと思い、曽根崎の胸をぐいぐいと押し返し腕の中から逃れようと体を捩る。 「何もしねーから暴れんな」 「嘘!嘘だ!そうやって、俺のこと抱いたくせに!!」 曽根崎は表情を変えることなく更に強い力でぐっと結空を抱き締めた。 「何もしねーって……」 「うそだ……」 「嘘じゃねーよ」 「……」 曽根崎の匂いに頭がくらくらするし、抗ったところで力じゃ到底かなわない。 結空は次第に抵抗をやめ、大人しく曽根崎の腕の中に収まった。 「お前なんでこんな所にいんだよ?学校は?サボりか?」 「何だっていいだろ別に……」 本心を伝えることは出来なかった。 体の変化についていけなくて、目の前の曽根崎には抱かれてしまったし透にも恥ずかしいところを見せてしまった。それにより、結空が持つ男としてのなけなしのプライドは粉々に砕かれた。 それだけじゃない。 教室中の視線が痛かった。 Ωがいくら珍しいからといって、あんなに嫌悪されるとは思っていなかった。 特に女子の言動には突き刺さるものがある。言葉も視線もトゲだらけだ。 だから学校には行きたくなくてさぼってる……だなんて、それこそ恥ずかしくて言えるわけない。 「まぁ確かに、俺が急にΩになったら学校なんて行かねーかもな」 曽根崎が結空を見詰めた。 何でそんなことを言うんだ?こいつは……? 結空は恐る恐る曽根崎と視線を合わせる。 「……?」 「女よりも魅力的な希少Ωだ。集団レイプされたっておかしくねーし、そんな目でクラスの奴らに見られんのも気色悪ぃ。それに女よりモテる男なんて女の敵とみなされてもおかしくねぇ。女の嫉妬は醜いからなぁ」 「……」 随分と知ったようなことを言う。 確かに曽根崎の言ってることは理解できるし、それはまさに今の自分に当て嵌まる。 だからといって今日一日学校をサボったところで何も解決しないのも、……わかっている。 おもむろに曽根崎が結空の首筋に鼻先を埋めた。 「んっ……」 「薬はちゃんとしたの処方してもらったみてぇだな。昨日よりも匂いが安定してる。でもすげぇいい。堪んねぇ」 「何が……いいの。こっちは曽根崎の匂いが、……堪らなく、嫌で……っ」 曽根崎の腕の中で結空がふるっと体を震わせた。

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