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第30話

現実のサイレンを聞いて真実味が増したのだろう。 曽根崎を襲っていた3人は、まるで漫画に出てくる小悪党達のように、慌ててその場から離れて行った。 パトカーに見つからないようにするためか、橋の上には上がらずに腰を低く落としたまま忍者のように河川敷を駆けて行く。 その様子が可笑しくて、結空は思わず緩んだ口元を手で覆い隠した。 「矢萩!」 曽根崎が結空へ向かって手を振っている。 「あ……」 なるべく関わりたくない。そう思っていたのに。 名前を呼ばれ、胸の奥がきゅっと甘く疼く。 何これ……? 結空の足が無意識に後ずさる。 曽根崎は近づいてはいけない男だと結空の頭が警鐘を鳴らす。 素行が悪く校内では有名な不良であることとか、先刻この目で確かめたケンカの強さとか、確かにそれも怖いけれど。 それよりも。 結空の体を甘く疼かせたαの曽根崎が怖い。 このまま曽根崎と接触するのはまずい。結空はどきどきと高鳴る胸を押さえてくるりと踵を返した。 やばい……。何これ……? 俺、薬飲んだよな?いや別に勃ったりしてないし、尻だって濡れてないし。 うん、薬は効いてるみたいだけど。 結空は停めておいた自転車へ向かって走り出した。 「おい、待て!矢萩!!」 曽根崎の声が聞こえて結空は走りながら振り返る。すると曽根崎もこっちへ向かって走っていた。 「ひっ!」 速い。しかも顔が超怖い。 曽根崎は怒ったように眉間に皺を寄せ、結空を睨みつけるようにすごいスピードで近づいてくる。 結空も必死にスピードを上げる。 しかし安定してない発情期に、飲み慣れない薬を服用しているためか、息が上がるのも早く、足元の草に足を取られ足元から体が崩れ落ちた。 「っ……!!」 「おい!大丈夫か!」 あっという間に追いつかれ、転んでしまった結空を曽根崎が引っ張り起こした。 どうしよう……。顔が熱い。曽根崎を見るのが怖い……! 「お前……顔真っ赤。もしかして、ケンカが怖かった……とか?」 そうだよ、怖かったんだよ。悪いかっ!? 思わずキッと結空は曽根崎に目を向けた。 「……っ」 思いがけず、曽根崎の表情がいつになく穏やかで、張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れる。 結空は目を潤ませた。 「ケンカ……もだけど、俺は、……曽根崎が死んじゃったらどうしようって……わっ」 次の瞬間、結空は曽根崎の胸に抱き留められた。

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