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第145話

──あれから8年が経過した。 結空、透、曽根崎3人の生活スタイルは変わらない。 生活スタイルは変わらないものの、曽根崎は代議士秘書を辞め今や閣僚となった父親を追うように政治家へ転身。衆院議員に就任し、平日は国会業務、週末になると地元で活動することを繰り返している。よって曽根崎が自宅に帰ってくるのは殆どが週末のみである。 透は依然として同じ私立中学で数学教師をやっている。 共学校ではあるが、透に告白する生徒は男女問わずで、応えることはできないが生徒はみんな可愛いと言っている。 結空は子供たちが小学校へ上がったのを期に幼稚園教諭として再就職をした。 一度は休職を届け出た最初の職場は、結局双子を育てることの大変さを理由に辞めてしまったのだ。 再就職後の幼稚園も、体力勝負の大変な職場だが、毎日がとても充実していた。 威と尊は現在8歳。小学2年生になった。 「ただいま」 「おかえりなさい!ゆら!」 「おかえりー!!」 母である結空を「ゆら」と呼びながら、笑顔で玄関先へ駆けてくる威と尊をぎゅっと抱きしめる。 柔らかい感触に、熱い体温、子供特有の匂いが結空の神経を落ち着かせてくれる。 赤子の頃は誰が誰に似ているかなんてわからなかったが、最近では年を追うごとに、はっきりとした目鼻立ちが透と曽根崎、それぞれがそれぞれに似てきたなぁと結空は思う。 威はキッとした力強い眼差しと男の子らしいやんちゃな顔つきが曽根崎にそっくりだと思うし、方や尊はおっとりとしていて聡明で賢く顔立ちも柔らかい。まさに透にそっくりだった。 妊娠中に医師から告げられたのは二卵性双生児である可能性。 今では間違いなく、2人の血をそれぞれ引き継いでいるのだと確信する。 「ゆら、俺お腹空いた」 「みこともー」 「うん。ちょっと待ってね。今日は二人の好きなマルカツのメンチカツ買ってきたから」 「やった、やった、メンチ、メンチ!」 「メンチ!メンチ!」 はしゃぎ出す威と尊に結空が苦笑する。 「メンチじゃなくて、メンチカツだからね」 「いいじゃん!どっちでも!」 「あんまり良くないから言ってんの」 「えー」 ぷうっと頬を膨らませる威の横で尊が「あ!そうだ!」と何かを思いだしたように声を上げた。 「あのね、学校のお友達のおうちに赤ちゃんができたんだって。いいなぁって言ったら、パパとママに頼むといいよって言われたの」 「え」 「ふうん」とか「へぇ」と適当に相槌を打ちながら野菜を洗っていた結空だったが、尊の言葉を聞いて一瞬手を止めた。 「お願いすれば赤ちゃんここにくるの?」 「うーん、そうだなぁ……」 「ねぇ、赤ちゃんってどうやって産まれてくるの?」 「えーっと。それは……」 まさかこんなところでそんな質問をされるとは思ってもみなかった結空はどぎまぎとしながらこう答えた。 「かみさまが、仲のいいパパとママのところに連れてきてくれるんだよ」 「じゃあ、たけるとみことも、かみさまがパパとママのところに連れてきてくれたの?」 「……まぁ、そういうことになるのかな」 結空がにっこり笑う。 つられて威と尊もにっこり微笑んだ。 全ては天からの賜りもの。 神様からの贈り物なのだと結空は思うことがある。 Ωとなったこの身体だって、きっと。 終わり。 2017.06.28

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