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Ⅱ 蒼い夜に②

ゥッ……と、聞こえた小さなうめきは黙殺する。 力任せに細い手首を吊し上げた。 「お前の星は間違っているな」 見開く瞳を銀のナイフが一閃する。 腕を掴んだまま、破れた右袖を引きちぎった。 ダヴィデの星 人種を識別し差別を助長するため、黄色い六芒星を付けるのが、法律で定められたユダヤ人の義務である。 だが、お前は…… 「ピンクだろ?」 震える唇を、唇で塞いだ。 生産性のない劣悪品 子を成さず、国家に利益をもたらさないゲイは国家への反逆者と見なされる。 ゲイの身分はユダヤ人の更に下 最下層の優先的絶滅種 ホロコーストでの過酷な強制労働の末、確実な死を迎える。 彼らが生き延びる方法は、唯一つ 体を差し出す事 上位の者に抱かれて、庇護を施される以外に生きる道はない。 「ピンク・トライアングルだ」 下卑た笑みを浮かべてやろう。 愚かな選択をしたお前に ダヴィデの星よりも下層の識別紋章 逆三角形 お前が付けるのは、ピンク・トライアングル 「選別のやり直しだ」 もぎ取ったダヴィデの星を、手の中で握り潰した。 「これを連れて行け」 列車から引っ張り出した細い体を、部下に投げ捨てる。 可哀想に お前はもう、私から逃げられなくなってしまったんだよ。

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