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かわれる

(しろ)は戸籍を持たない男であった。当たり前のように名前がないが、通り名として白と呼ばれている。 戸籍すら存在しない、真っ白な存在。だから白と呼ばれるのだ。 それが嫌だとは1度も思ったことはない。名前みたいで、初めて会う人には嬉しそうに自分で白と名乗るぐらい気に入っていた。 白には戸籍がない。その為、住所を持つことも許されず、働くことも出来ない。しかし白は、あることをして何不自由なく暮らしていた。 あること。それは、見知らぬ男の子供を孕み産むことである。 9年ぐらい前だろうか。少子化を受けた政府がある薬を世に送り出した。それは、男でも子供を孕むことが出来る薬である。 画期的な薬。世間からは注目を集め、そしてその薬は飛ぶように売れた。 しかし、男でも孕むことが出来る薬は性犯罪を増加させることになる。 合意も得ず、男にその薬を飲ませ犯す。そんな事件が年々増加するようになった。それを受け政府は、パートナー契約を結んだ男性達だけに薬を与えるようにした。 しかし、そんな政府の目を盗んでは闇ルートにその薬は回り続けた。それを買い、白は子を孕むのだ。 推定18歳の頃から子供を孕み続けてもう8年になる。今まで約8人の子供を産んでは、金を貰っていた。 『白くん。そんな生活、もうやめよう。僕が君を守ってあげるから』 誰かの子供を孕んでいる時、白にそう言ってくれた酔狂な男がいたが白は聞く耳を持たなかった。戸籍のない真っ白な自分でも、金を得ることの出来る手段なのだ。簡単にやめるわけにはいかなかった。 男と一夜を共にし、子供を孕む。子供が産まれるまで男と会うことはなく、産まれれば金と引き換えに子供を渡す。 そんな生活が続くと白は思っていたのに。 「お前の腹にいる子供を含め、俺がお前の人生を買ってやる」 目の前に白も見たことがない札束の山を積みながら、昨日一夜を共にした新しい客が言った。見たことのない大金の山。気づけば、白は頷いていた。 大金を積んで、白ごと買うと言った男。白ですら知っている、緋佐塚(ひさつか)グループのトップ緋佐塚文汰(ひさつかあやた)は、白が頷くのを見るとゾクリと背筋が凍るような笑みを浮かべた。

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