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おまけ:緋佐塚文汰のうら

「村田、白と紡を頼んだぞ」 「分かりました」 「大切な取引先との話、頑張ってね文汰。ほら、紡もパパを応援しような」 白が抱っこしている紡の手を取り、文汰に向かって取った手を振る。自分も手を振り返し、白と紡にキスをすると家を出た。 文汰が車を走らせること、約20分。とあるホテルに着いた。慣れた手つきで駐車場に車を停め、中に入る。 ホテルの受け付けに名前を告げれば、何もせずに部屋に案内された。案内された部屋のドアを、文汰は躊躇いもなく開ける。するとそこには、文汰の母である万里と1人の男性が立っていた。 「急に呼び出して、何のようだ」 冷たい文汰の言葉に、男性はビクリと身体を震わせた。しかし、万里はそんなこと関係なしに文汰に駆け寄ると足にすがり付いてきた。 「お願いよ、文汰!!本家の方に戻ってきて!!もう、あの人の跡を継げなんて言わないから、お願いよ!!!」 万里の言葉を文汰は黙って聞いていたが、最後の言葉を聞き終わって腹のそこから笑った。狂ったように笑い続ける文汰に、万里は恐怖し離れる。 「っ、笑わせるなよ。どうせ俺が戻ったら、お前らは文世(あやせ)兄さんを引きずり下ろしてから、俺をトップにのしあげるだろうが」 「そんなことないわ!!」 「いや、あるだろう。だからあの時、お前らは俺に跡を継がせるって言ったんだ。その時まで、文世兄さんを跡継ぎと言っていたくせに」 文汰の言葉に、万里は唇を噛み締めていた。 「俺は、跡継ぎにならなくて良かった。ただ、文世兄さんを支えられるだけで良かったんだ」 「あやた、」 それまで身体を震わせて黙っていた男性が、口を開いた。文汰の名前を呼び、そして涙で頬を濡らしていた。 「泣かないでください、文世兄さん」 文汰がゆっくりと男性―文世―に近づいて、そして文世の瞳から零れる涙を拭った。 「俺は、あなたがすべてだった。だから、文世兄さんが手に入れられなかった“あれ”を手に入れたんだ。だからもう心配しないで、華苑家の長男に、飼われてください」 それだけ言って、文汰はホテルの部屋を出ようとした。しかし、文世がそれを止める。 「文汰っ!あれって、まさかっ」 「………あんたが惚れた、真っ白のくせに汚れた男。あれはもう、俺のものだ」 「っ!白くんに何かしたのかっ!!!」 「何したって、子供を孕ませて産ませた」 「きさまっ!!」 文世が、文汰を殴ろうとした。しかし、握られた文世の拳を軽々掴むとそのまま床に押し倒した。 「確かに最初は不純な想いだったさ。でも、今は違う。あいつの身体も、声も、想いも、何もかも全部俺のものなんだよ。誰にもやらねぇ。――してた兄さんにもやらねーよ」 そう言った文汰の声は泣きそうだった。 「ただいま、」 「あ、おかえり文汰!」 家に帰りついた文汰を、白は笑顔で迎えてくれた。 「――――――――――しろ」 そんな白を、文汰は抱き締めた。ギュッと抱き締め、白の温もりを感じながら思う。 未来永劫、これはもう自分のものだと。 END ここまで読んでくださって、ありがとうございました!!

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