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つむぐ

あれから、文汰と白の生活は慌ただしかった。 文汰は、緋佐塚の本家と縁を切り自分の会社を立ち上げた。文汰の手腕は認められていたが、巨大な緋佐塚の本家に逆らうわけにはいかないと、業績は延びなかった。 しかし、文汰の努力を認める人達もいた。その人達のおかげで、文汰の会社も成長することができた。緋佐塚の本家と対等に渡り合えるまでに。 そうなれば、緋佐塚の本家から文汰に乗り換える人達も多くなり。いつの間にか、巨大であった緋佐塚の本家も衰退していった。 そして――――――――――。 「文汰様、少しは落ち着いてください」 「っ、落ち着いていられるか!白は今、腹を切られてるんだぞ!!」 とある産婦人科の手術室の前で、文汰はうろうろとしていた。その表情は何とも言えないもので。苦しそうでもあり、怒りにもそまり、そして辛そうでもある。そばにいて見守る村田の方が、断然落ち着いていた。 そして、文汰が何度も見る手術室の中には白がいる。文汰と白の子供を産むために。 大丈夫と笑顔で手術室に白が入っていったのが、今から30分前。白の姿が見えなくなってから今まで、文汰はずっとこんな感じだった。 「しょうがないですよ。男性は、産道というものがありませんから。帝王切開しか出産方法はありません」 「っ、それは分かっている!本当に、痛くはないんだよな。痛みで、白が泣くことはないだろうな」 「麻酔もしますから、大丈夫です。文汰様、父親になるのでしょう。今から慌てて何になるんですか?これから、これ以上にもっと大変になるんですよ」 「っ、分かっている。分かっているが不安なんだ。子供が無事に産まれるのか、白に影響はないかとか」 文汰は、ただそれが心配なのだ。白と、お腹の中にいる子供が無事なのかどうか。手術室には入れない自分には分からない。 そんな文汰の姿を見て、村田はフッと笑った。笑いながら文汰の手を取る。震える文汰の手を握りながら、本当によかったと思った。 自分が文汰の下で働き初めてから、今までこのような姿を見たことがなかった。いつも1人で立っているような人だった。 でも、そんな文汰にも守るべき者がやっとできたと実感した。 文汰を疑うわけではないが、もしかしたらという考えもあった。でも、こんな姿を見せる文汰に嘘も偽りも存在しないと思えて。 「文汰様。白様と、お子様はそんなに弱い存在なのですか?違いますよね」 「っ、あぁ、」 「大丈夫です。白様も、お子様もお強い方です。大丈夫。白様が頑張っているのに、文汰様が不安になってどうするのですか?そのような顔、白様にお見せできるのですか?」 「――――――――見せ、られないな」 文汰が笑みを見せたその時だった。 大きな産声が、文汰と村田の耳に届いた。 「っ、可愛いな」 「うん。でも、将来は文汰みたいにかっこよくなってほしい。いや、なるんだろうな」 「そうか?」 「うん。鼻筋とか、目元とか。文汰そっくりだよ」 「いや、白に似ているだろ」 小さな赤ちゃん用のベッドで眠る産まれたばかりの子供を見ながら、文汰と白は話す。 大きな産声をあげて産まれた子は、元気な男の子だった。そして白も痛みもほとんどなく元気である。 「本当に、産まれたんだな、」 「ん。でね、俺、この子の名前考えたの」 「名前……」 「そう。(つむぐ)っていうの。いい名前でしょ」 「紡か、」 「この子が、俺と文汰の幸せを紡いでくれたから。だから紡ってつけるの」 文汰も子供の名前は考えていた。 でも、白が考えた「紡」という名前が1番文汰の中でしっくりきた。 「――――――つむぐ」 なぁに、パパ。 そう反応したかのように、文汰が名前を呼んだ瞬間、紡が泣いた。 END

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