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水曜日 午前三時

玄関が開くかすかな音。遠慮がちな足音が近づいてきて、浅い眠りから引き戻される。 恋人が帰ってきた。 僕の髪にそっとキスを落として、何も言わずにシャワーを浴びに行く。 パタン…と閉められた扉の奥で遠慮するように微かな水音が聞こえる。 もう何日も、「お帰り」といって彼を抱きしめていない。 そして、あと少ししたら僕は起きて、できるだけ音を立てないように部屋を出る。 連日の残業で疲れ切った恋人。終電にすら乗れない彼のために、この部屋に越して三か月がたった。 順調に見える二人の生活で、足りなくなってきたのは、君の笑顔。 お互いに背中を向けたまま眠るのに慣れてしまったことが悲しくて、僕は声を殺して静かに泣く。 何度も別れを切り出そうと思ったけれど、皮肉なことに、すれ違う日々がそれを許してくれなかった。 いつも通り、午前3時より少し前に起きて目覚ましを止める。 窓の外には、寝待ちの月が出ている。 横を見れば、生乾きの髪を枕に広げた恋人が、背中を丸めて、死んだように眠っていた。 澱のような苦しみが降りつもるのを、見て見ぬふりを続けていた。 額に掛かる一房をそっとよけようとして触れたのに、身じろぎもしない。 当たり前だ、でも、どうしようもなく孤独で、君に触れたい。触れられたいのに、叶わない。 僕の嗚咽に、瞼が動いた。止まらなくなった涙が頬を伝って落ちる。覚醒しかけた頬にわざと当たるようにすると、君の唇が動いた。 眠りの重力に抗いながら、ろれつの回らない言葉で僕の心配をする。 月明かりの部屋の中、目を閉じたまま抱き寄せられた。 その温もりだけを覚えて、もう少ししたら僕は出かける。 夜明けまであと数時間だ。

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