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水曜日 午後二時
近所の高校の購買での販売を終えて帰ってきたら、俺の仕事は終わり。
勤め先のベーカリーカフェの裏口から出て、駅に向かう。
水曜日は、まかないで貰える焼きたてのパンが目当てなんだ。今日も袋からいい匂いをまき散らしながら、待合室で電車を待っていた。
きた。
いつものサラリーマン風。少し年上、でも会社で働いてるにしては変な時間に電車に乗る。
いつも俺からできるだけ離れて座るけど、残念ならが今日は女子高生グループの間か、俺の隣しか空いてない。ほーら、困った顔しちゃって。
散々視線を泳がせた後、こちらをちらちら眺めてから近づいて、おずおずと俺に軽く会釈して座った。
手に持った袋からはまだ温かいパンの匂いがする。
十秒もしない内に、隣から盛大な腹の虫の音が聞こえた。
何度も飲みこむ唾。
ふふ、腹減ってんだな。午後二時、もしかして昼飯もまだだったりして。
パンの事考えないようにしてるのか、絶対にこっちを見ないから、遠慮なく横顔を観察した。
まだ唾を飲みこんでる。そんなにお腹空いてんのかな?それとも俺の事意識してる?
大音量の構内アナウンスの後、ホームに電車が滑り込んできた。
わらわらと動き出す女子高生の群れにけおされて、少しタイミングをずらして立ち上がろうとする彼のジャケットの裾を掴んだ。
驚いた顔でこちらを見る。唇を震わせながら何か言ってるけど、停車した電車の音にかき消された。
焦って真っ赤になっている。
ねえ、食べたいのはどっち?パンよりも俺の方がおいしいかもよ。
上目づかいに見詰めていると、遂に口を閉じて下を向いた。
「はいこれ」
爪先を見ている視界にパンの詰まった袋を突き出したら、やっとこちらを見てくれた。
「バイト先のパンです。美味しかったら水曜に来てください。俺、レジにいるんで」
まずは胃袋掴んで、餌付けだよ。
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