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水曜日 午前七時
兄x弟の恋人
扉を開けた正面には弟のベッドがあり、ここは弟の部屋で、俺は今日着ていこうと思っていたお気に入りのシャツが見つからないから、こっちの部屋に紛れ込んでないか見に来ただけだ。
なのに、ベッドには無邪気な顔をこちらに向けて眠っている(多分年下の)男の子を後ろから抱いて、同じように罪のない寝顔を見せている弟がいる。抱いているのが女の子なら確実にやった後だろ、って位親密な気だるさが部屋を満たしていた。
こいつ、ホモだったのか?
今どちらかが目を覚ましても掛けるべき言葉が分からないから、そのまま後ろ向きで部屋を出て静かに扉を閉めた。心臓がバクバクする。
いくらここが離れで俺達兄弟しか使ってないとはいえこれはないだろ。
兄弟だからこそ弟がそう言う事してる生々しい証拠を見せつけるのは勘弁してほしい。
少し時間を置いてからトイレに行くと、タイミングの悪いことに丁度部屋から出て来た相手と鉢合わせた。ホモなんてボディビルディングでガチガチに鍛えた筋肉マッチョが「好きだ、俺を抱いてくれ!」って言うイメージしかなかったけど、何だ普通の子じゃないか。
これが女の子だったら、と思えるほど女っぽくはない。弟から借りたらしい短パンとTシャツからのぞく腕脚にもしなやかに筋肉がついている。
いや、目を引く感じは確かにある。
無精ひげもまだ生えない輪郭は甘く、窓からの朝陽の中で成長過程独特のみずみずしさと、人を引き込む不思議な色気が立ち上っている。
「何すか?入るんなら先どうぞ」
ついジロジロ見ていると、ものすごく不機嫌そうな目で睨みつけながら順番を譲ってくれた。
トイレの扉に手を掛けながら、バカみたいな質問がふと口をついて出た。
「お前あいつと付き合ってんの?」
「は?」
勝ち気で生意気そうな目が心底不愉快そうに細められるのを見て、何故かまた俺の心臓が騒いだ。身体中を血が駆け巡り、頬が赤くなったのが自分でも分かる。
そんな様子に気付いたのか、ふっと表情が緩み困惑している。
「……DVD観に来て泊まっただけ」
「祥爾、何やってんだ!」
トイレからなかなか戻ってこない事に気付いて扉を開けた弟が、大きな声を上げて飛び出してきた。
「兄貴はさっさとトイレ入れよ!」
弟に手首を掴まれて部屋に戻ってゆく背中を見ていたら、扉が閉まる直前に彼は振り返って俺を見て、唇の端を上げた。
見りゃわかるだろ、とも、付き合ってなんかいない、とも取れる様な皮肉な笑顔が眼裏に張り付いた。
俺は身体中の細胞がピンク色に染まるような感覚に鳥肌をたてて、それを見送った。
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