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第1話
青年は眠っている彼の額に触れ、前髪を剥がす。
初夏の朝、少しずつ暑くなり始めたせいでうっすらと汗をかいていた。
「琳太朗、朝だよ」
耳元でそう告げながら青年は肩を叩いた。
小さく唸った彼は、ゆるゆると目を開ける。
何度か瞬きをした後に、おもむろにあくびをした。
「おはよう、琳太朗」
青年が声をかけると、交わらなかった視線が徐々に近づく。
ぱちり、合いかけた後に動かされ、少しずれた目線。
「おはよう」
にこりと微笑む彼、琳太朗。
その後窓の方を見て、ポツリと話しだす。
「いい天気だね、真郷。すごく明るい」
ぼんやりとした視界でも、今朝の太陽は眩しく見えるようだ。
真郷と呼ばれた青年は、琳太朗に倣って窓から外を見る。
くっきりとした青空と白く輝く太陽。
青々とした草は風に吹かれ、さわさわと音を立てて揺れる。
夏にかけて色濃くなってきたこの景色は、琳太朗の目にはどう映っているのだろう。
「そうだな……暑くならないうちに、散歩でもしようか」
その世界がはっきりと見えなくても、聞こえなくても。
肌で感じられることだけは絶やさないように。
「いいの、 仕事は?」
「午後に片付けるから大丈夫。ほら、朝ご飯にしよう」
その一言に琳太朗は起き上がり、何かを探すように手を伸ばした。
ふらふらとするその手をきゅっと握り、真郷は琳太朗を立ち上がらせる。
ゆっくりとした歩で、2人は食卓までむかった。
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