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去る者の思い

初めて会ったその人は辛そうな顔をして泣いていた── 療養のため、という理由で葵は母と二人でこの地に来た。 新しい土地、病院……産まれてからずっと、同じ地に長く留まったことがない。友達だっていやしない。周りは気を遣っているのか葵に対して心を割って話すような奴は一人もおらず、腫れ物に触るかのように接する友に心を開けるわけもなく、葵はずっと孤独に感じていた。 自分の病状は詳しくは聞いていない。 聞くのが怖い……というのもあるけど、はっきり言ってあまり興味がなかったといった方が正しい。 自身の生に無関心。ただ親より先に死ぬのは親不孝だよな……と感じ罪悪感に苛まれるくらいだった。 友行と出会ってから劇的に変わった。 生きたい── もっと友行と一緒に生きていたい。 初めての友達。親友。今まで友というものを持ったことがなかったから、葵は距離感がよくわからなかった。好きだから手を繋ぎたい。触れていたい。笑顔にさせたい。自分を良く見られたい。……そう思うのは普通なのだと思っていた。 でもあの日、祭りに行きたいと言った葵に付き合ってくれた友行と共に過ごし、並んで花火を見上げ触れた指先に感じた熱は友人のそれとはちょっと違うものだと気付いてしまった。 ドキドキする…… 笑顔を見せてくれると堪らなく嬉しい。初めて自分以外に興味を持った。初めて「好き」という感情が自分に芽生えた。葵にとって、その対象が異性ではなく同性だったということは問題ではなかった。 花火の音に紛れて「好きだ」と聞こえた。 気のせいかもしれない。願望が空耳を生んでしまったのかと、可笑しくなった。「何か言った?」と顔を覗き込めば慌てた様子で話を逸らす。自分よりひとつ年下のこの男は、しっかりしているようでどこか幼く見えることがある。そんな彼が愛おしく、泣かせたくないと願わずにはいられなかった。 自分がいなくなったら友行は泣くだろうか。それとも怒るだろうか。 「また来年も一緒に来ような」 そう言ってくれたのに、きっとそれは叶わないから……。本当のことが言えず「うん」と返事をしてしまった。意気地なしでごめん……と、家路につく人々の喧騒に消え入る程の小さな声でそう言うのがやっとだった。 また巡ってくる夏の祭り。 愛おしい人に手を引かれ、今年もまた彼の背に寄り添い花火を見上げる。 あの時のキラキラとした宝物のようなこの気持ちはちゃんと伝わり届いていた。 「もう泣かなくていいんだよ……笑ってて」 そう言ってあげたいけど、その言葉はもう届かない。

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