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第4章 決意表明5

 朔夜は、不思議な気持ちになった。  話をしたからといって、状況が一変したわけでもなければ、問題が解決したわけでもない。それでも、今まであった嫌なことについてを日向に言ったら、少しだけ胸のつかえが下りたような、喉に刺さった魚の小骨が取れたような感じがしたのだ。 「そんなことねえよ。日向の言う通りだ。嫌なことを話したら、少しだけ、息がしやすくなった感じがする」 「よかった!」と日向はほっと息をつき、朔夜の手をふたたび握る。 「ただ、守られているだけのお姫さまじゃなくて、さくちゃんが苦しんでいるときに支えられるような、背中を預けて一緒に戦えるような、唯一無二の相棒――みたいな関係になりたいんだ! お父さんに、さくちゃんとのことを反対されても、僕が強くなって、ちゃんとお話しをすれば、納得してもらえる可能性も上がるでしょ? そうすれば、僕たちも駆け落ちをしないで済む。家族やお友達と、離れ離れにならないよ!」  朔夜は、日向の言葉を聞いて、胸がじんと熱くなった。  将来、日向が強いオメガになれるかどうかは別問題だ。  だとしても、駆け落ちをする以外の方法を考え、大切な人たちと、この先も一緒にいられる道を考えてくれた。日向の思いやりのある心が、朔夜には嬉しかったのだ。 「ねえ、さくちゃん。指切りをしようよ」  日向に言われて、朔夜は小指を差し出し、ふたりは小指を絡ませた。 「大きくなったら、さくちゃんの番になれるように、結婚式を挙げられるように強くなる! もっ、もしも弱いままだったときは、さくちゃん、僕に針千本飲ませてね!?」 「いや、おまえに、そんなひでえことはできねえよ」  朔夜は、顔を青()めさせ、ぎゅっと目をつぶっている日向の姿に苦笑し、「ありがとな」と礼を言った。 「俺も、もっとおまえのことを守れるような――泣き虫じゃない強い男になる。だから愛想を尽かさないでくれよ……約束な」  ふたりは、指切りげんまんの(わらべ)歌を、口ずさんだ。  ちょうど歌い終わると誰かが草むらを掻き分ける音がする。次いで、おしゃべりをする(にぎ)やかな声が聞こえてくる。  朔夜と日向は顔を見合わせて笑った。 「絹香ちゃんと(よう)()ちゃんだね」 「ああ、昼寝の時間が終わったみたいだな。それにしても、あいつら、ずいぶんと(やかま)しいな。俺らがここにいるって気付くのも早いし……」 「だってふたり人は、かくれんぼの天才だもん!」 「そうだな。それじゃあ、先生に怒られに行くとするか。ほら、行くぞ」 「うん!」  朔夜と日向は手を繋いで、友達の声がするほうへと走った。

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