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第23章 初めての恋人3
「う、うるせえな。んなもん言われなくても、わかってるっつーの!」
朔夜は自分の頭の上にあった手を払いのけた。
「模試の成績が悪かったんだか、抜き打ちテストで英語ができなかったのか知らねえけど、弟に八つ当たりすんじゃねえよ!?」
「バカ言うな。どっちもよかったよ、満点」と燈夜は、したり顔で笑う。
「はあ、マジでうっざ!」
「おまえと俺じゃ頭のできが違うんだよ、朔夜。当然だろ」
「そうかよ、イヤミったらしいな。……だったら何をそんなにイライラしてんだよ?」
朔夜が疑問を投げかければ燈夜は目線をそらし、ココアを淹れるためにキッチンへ向かった。無言のまま黒サビがついたやかんに水を入れ、コンロの火をつけて沸かす。
「後、兄ちゃん。ひとつ誤解してるぜ」
「何を誤解してるって言うんだ?」
「俺、もう片思いじゃねえから」
「……はあ? 意味わかんないんだけど」と燈夜は眉を寄せた。
コケた朔夜は体勢を立て直すと、自信満々な表情で胸を張ったのだ。
「だ・か・ら、日向に告白して返事をもらったんだよ。本日めでたく恋人に昇格しました! 俺、日向の彼氏」
得意げな様子で朔夜は、フフンと鼻を鳴らす。が、「寝言は寝て言えよな。日向くんが、おまえの恋人になる夢の話かよ。現実を見ろよな」
「なっ!? う、嘘じゃねえ。俺は本当に……」
「そうだな。夢で見たことを現実にあったことだと誤解するのは、嘘をついてることにならないよなー」と、あきれ顔の燈夜は、自分のマグカップにココアの粉とはちみつを入れ、冷蔵庫から取ってきた牛乳を注いだ。
「夢じゃねえ……! 証拠なら、ちゃんとここにある!」
ズボンの後ろポケットに入れてあるPHSを取り出した朔夜は、先ほど日向と電話をする前までのメール画面にし、燈夜の眼前に突きつける。
燈夜は、朔夜の持つ黒いPHSをひったくり、左右のキーボタンを押して朔夜と日向が交わした文面を読んだ。
『おまえにメールするなんて久しぶりだ。なんだかドキドキする』
『僕も、さくちゃんと一緒。なんだか、ちょっと恥ずかしいな。僕たち携番やメアドは交換して知ってても、あんまりやりとりしたこと、なかったよね。でも今日から恋人だよ。これからはメールや電話が気軽にできるね!』
『そうだな! ところで今度の休みのデートについて、いろいろと決めたいと思うんだけど……何時だったら、電話に出れる? 今夜は、じいちゃんところの道場で剣道の稽古だろ?』
『うん、そうなんだ。多分19:00過ぎには道場を出れると思うな。終わったら、こっちからメールするね』
『ああ、待ってる』
「嘘だろ……マジかよ」と燈夜は頬を引きつらせながら朔夜にPHSを返す。
「ほら、見ろ。ちゃんと現実だ!」
満面の笑みを浮かべた朔夜は細かい傷がついたPHSを受け取り、大事そうに撫で、頬ずりをする。
「どうだよ、弟に先を越される気分は?」
意地の悪い表情を浮かべて朔夜は兄を挑発した。
「競争じゃないんだから何も思わないよ」と燈夜は、きっぱり言い切った。「おまえ、マセガキにもほどがあるな。ていうか、なんで急に進展した? 日向くんとおまえが両思いになるのは、精々高校に入ってからだと思ってたのに……」
「予想が外れて残念だな、兄ちゃん」
朔夜は燈夜が机の上に置いたココアの粉末が入った袋を手に取り、自らのマグカップにも入れる。
「坪内さんに対して日向が嫉妬したんだよ」
「あの日向くんが、嫉妬!? いくらなんでも冗談がきついぞ! 明日、槍が降るんじゃないか?」
驚愕のあまり燈夜は、つい大声を出した。
兄の発言や態度に対して朔夜は苛立ちを覚え、眉間にしわを寄せ、眼差しで抗議する。
ギャーギャーわめいているときよりも、一瞬無言になったときのほうが骨を折る相手だと、長年一緒に育ち知っていた燈夜は、わざとらしく咳払いをした。
ピー! と甲高い声で叫ぶやかんを取りに行き、自分のミルクが入ったマグカップと、ミルクの入っていない朔夜のマグカップに沸騰したお湯を注いだ。
「茶化して悪かった。それで、どういう経緯でカップルになったんだ?」
「坪内さんが俺にベッタリで俺たち一ヵ月近くも話せなかったんだよ。それで日向が、さみしい思いをして俺の存在がどれほど大きいか、俺と話せないとどれだけつまらないかを実感してくれたんだ。で、兄ちゃんのアドバイス通りに『恋人になってくれ』って素直に言ったら、見事にうまくいったってわけ!」
「それはよかったな。そんな奇跡みたいなことが起きるのか」
燈夜は湯気の立った甘いココアを飲みながら相づちを打つ。
「ああ、俺自身もビックリしてる! マジでサンキューな、兄ちゃん」と朔夜は牛乳やはちみつ、砂糖の入っていないココアを口にする。「後で、兄ちゃんの好きなチキン南蛮のタルタルソースがけ、作ってやるからな。ほっぺが落ちそうなくらい、うまいのを。楽しみにしてくれよ」
「……サンキュー。それで今度の休みに、さっそくデート?」
「そうだ! 兄ちゃんのおかげで俺の恋は成就した。これにて一件落着。めでたし、めでたし――っていうわけにもいかねえんだよな」と朔夜は険しい顔つきをする。
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