164 / 165

第23章 初めての恋人2

 くつ下を脱いだ素足を見つめながら朔夜は日向の返事を待った。 『もちろんだよ。僕も、さくちゃんと学校じゃないところでも、いっぱい話したい』  日向の言葉に胸が、じんとなるのを感じながら「それじゃ、またな」と朔夜は通話ボタンを切った。  朔夜は前髪をかき上げながら手の中にあるPHSをじっと見つめる。  明日また会えるし、電話だって好きなときにできる。それなのに、もう会いたいって思う。もっと声を聞きたい、もっといろんな話をしたいって思うのは、なんでだろう? まだ夢を見てるみたいで身体がふわふわすると、彼は顔をほころばせ、窓を閉めた。  床に落ちている小説を拾い上げて、続きを読もうと席に着く。 「恋人になっただけでも、こんなに幸せな気持ちになるんだ。番になったら、どんな感じがするんだろ?」と本を手にしたままの状態で、誰に言うでもなく独り言を口にした。  発情期のオメガは、アルファと交わっている最中にうなじを噛まれると、天にも昇るような多幸感に全身を包まれるという。  それは、うなじを噛むアルファも同じ。オメガ――とりわけ魂の番の熱くぬめった胎内へ男性器を挿入し、うなじを噛むと全身がとろけてしまうほどの絶頂を味わうといわれていた。  朔夜は勉強机の前で目を閉じ、日向の象牙色をした、うなじを想像する。  滑らかな肌と絹糸のように手触りのいい髪。甘いバニラアイスのような香りがする首後ろへ歯を立てる。  唇や手を這わせて肌を愛撫し、自身の勃起した性器をオメガの子宮が存在する後孔へ潜り込ませる。愛の言葉を囁きながら、あきることなくキスをして身体を重ねるのだ。  ――朔夜の父親である(こう)(すけ)はラーメン屋を営み、手間暇のかかる下準備をしてから、じっくりコトコトと弱火で煮込んでホロホロ肉のチャーシューを作る。習い事の空手教室がない日は、朔夜も積極的に父親の手伝いをしたり、父親の仕事を手伝う母親に代わって夕食の準備をした。  じっくりと時間をかけ、苦痛でなく快楽だけを日向に味わってもらい、とろかせたら、もっと自分を求めてくれる・必要にしてくれるんじゃないかと朔夜は思い至る。  日向の熱を孕んだ目とつややかな表情を独占したい。朔夜(アルファ)なしでは生きていけない身体に作り変えた証がうなじに残ったら、どれだけ幸福だろう――。  彼は生唾をゴクリと呑んだ。 『さくちゃん』  やわらかな桃色の唇にそっと口づけ、布団の上に日向を横たわらせたる場面を妄想した。  恥ずかしそうに顔を赤らめ、緊張して身体を強張らせている日向の丸い頭を撫で、触れるだけの口づけをする。大切なプレゼントの包装紙やリボンを解くように一枚ずつ丁寧に服を脱がせ、きめ細やかな傷ひとつな肌へ手を這わす。  心臓が鼓動を打つ速度が次第に速くなり、ズボンの中の性器が固くなり始めていた。熱い吐息をこぼした朔夜は、右手は下半身へと移動させる。 「――おまえ、なんつー顔してんだよ。気持ち悪いな」  横を見ればブレザー姿の燈夜が横にいて、朔夜は後ろにひっくり返った。 「なっ!? 兄ちゃん! いつの間に帰ってきたんだよ!?」 「ついさっきだよ」と燈夜は答え、スクールカバンを自分の勉強机に置いた。背中を地面に打ちつけ、椅子を起こしている弟の姿を、注意深く観察する。 「おまえ、すごい顔してるぞ」 「へっ? どんな顔だよ」  バツが悪そうに朔夜は返事をした。気まずさを覚えた彼は一階に下りようとドアの前に移動する。 「父さんが、母さんとデートする前日の夜に、夕飯食べながらニタニタしてるのと同じ顔。まさに色ボケって感じ」 「おい! いくらなんでも言い方が、ひどくねえか!?」と朔夜は振り向き、兄に反発する。  ひょうひょうとした様子で燈夜は、いつものように「なんだよ、漫画のお色気シーンでも見て興奮したのか? それとも雑誌のとじ込み付録にある芸能人の水着姿でオナニーしようとした?」と弟を煽った。 「うるせえな! 日向のことを考えてただけだよ!」  制服から部屋着に着替えている燈夜を睨み、ドアノブへと手を伸ばし朔夜が、がなり声をあげる。 「この部屋も来年には俺専用の子ども部屋になるんだ。俺がナニしようと関係ねえだろ!」 「はあ? ふざけんな。今は、おまえ単体の部屋じゃないだろ。俺の部屋でもあるんだぞ」  眉をひそめた燈夜が脱ぎ捨てた白いワイシャツを拾い上げた。  慌てて朔夜は階段を駆け下りたが、廊下で燈夜に捕まり、膝蹴りを食らわされる。 「いってえな! 何すんだよ!?」 「あの部屋で、おまえがマスをかいたら、部屋の中がイカ臭くなって俺が勉強できなくなるんだよ」 「人をばい菌扱いするな! だったら窓でも開けて換気すればいいだろ!? ティッシュだって袋で密閉しておくし」  膝蹴りを食らわされ、じんじん痛む尻を押さえながら、朔夜は大声でぼやいた。 「こっちは大学受験を控えてる受験生だ」と燈夜は、こめかみに血管を浮かび上がらせ、ドスのきいた声を出す。朔夜の頭を鷲掴み、力をこめる。「日向くんと恋人になれない欲求を解消するなとは言わないよ。けど、誰が帰ってくるかもわからない時間帯に抜こうとするな。ヤるなら、みんなが寝静まった後に便所か、風呂で抜け」

ともだちにシェアしよう!