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第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにはいられない関係6

 机の上で腕組みをした日向は、どこかさみしげな微笑みを浮かべる。  彼の言葉や表情に、朔夜は奇妙な違和感を覚えた。  まるで、このままどこか遠くへ行ってしまい、二度と会えないような……いやな焦燥感を覚え、「なあ、置いてかれるって、どういう意味だよ?」と口早に尋ねる。「おまえは五月生まれで俺は七月生まれ。おまえのほうが先に誕生日を迎えて大人へ近づく。いつだって置いてけぼりにされるのは俺のほうだ」 「えっと、そういう意味じゃないんだ……」 「だったら、なんだよ?」 「いいの! なんでもない。誕生日は確かに、すぐ追いつくよね。だって、たった二ヵ月の差だもん」  日向は、つとめて明るい声で答えた。 「あっ……ああ、そうだな」  なんだ、そういうことだったのか、と朔夜は、テーブルの上にある透明なグラスを手に取った。氷水を口にし、身体を体内から冷やす。 「ねえ、さくちゃん。ご飯を食べた後は、どこから回ろっか?」  朔夜と和泉が再度鉢合わせして、嫌悪な雰囲気にならないよう、絹香は聞き耳を立てた。 「とりあえず一階の本屋から回ろうぜ。この店のすぐ近くだ。おまえも少年漫画の最新刊、ほしがってただろ? 人気高いから買い忘れたら大変だ!」 「そうだね、ありがと! じゃあ、その後は一階のお店を回って二階に行くのは?」 「ああ、いいな。おまえは、今日、なんか買うもの、ほかにあるか? ノートとか服なんかさ」 「んー……お母さんに頼まれた喫茶店の紅茶くらいかな。さくちゃんは?」 「もうすぐ消しゴムがなくなりそう。後、兄ちゃんのために虎縞銘菓の和菓子を買いたい。試合で疲れて帰って来るから好物のモナカと、いちご大福を買っとく」  そうして、ふたりが最初のペースを思い出し、和気あいあいと話していると店長がやってくる。 「失礼いたします。お先にお飲み物のアイスミルクティーとアイスレモンティーでございます」  朔夜と日向は、晴れやかな笑顔で礼を述べた。  店長は、朔夜と日向に向かって、昨日できなかったことを今日になってできるようになった子どもを前にして喜ぶ親のような顔をした。続いて絹香へとティラミスの載った皿を給仕する。 「わあ、絹香ちゃんのケーキ。おいしそう!」  コーヒーの黒とマスカルポーネチーズクリームの白が、交互に積み重なっている小さな正方形のケーキを前にして日向が驚嘆する。  デザート用のフォークを手にした絹香が日向に笑いかける。 「ええ、大人っぽくて、すてきよね。ひなちゃんも食べる?」 「いいの!?」と日向は目を輝かせた。「じゃあ店員さんに『僕のぶんのケーキを、やっぱり先にお願いします』って頼むね」  近くで、客の帰ったテーブルを拭いている女性店員に声をかけようとする。  絹香は「いいのよ、あたし、もうお腹いっぱいだから」と眉を下げ、苦笑する。「ひとりじゃ食べきれなくて残しちゃいそうなの。それじゃ、もったいないでしょ。和泉くんは基本的に甘いものを食べないのよ。だから、ひなちゃんも一緒に食べてくれない?」 「僕はうれしいけど……そうなの、和泉くん?」 「まあ、そこら辺はテニス選手だからね。甘いものの取り過ぎで身体が重くなったら大変だ。それに、このベータとは到底思えない、アルファに匹敵するビジュアルを保ちたいんだよ。世の女性陣のためにもね」  ナルシストな発言をし、嬉々とした表情をする和泉を前に日向は目を点にし、絹香はジト目になる。  朔夜は、あれこれ言ってやりたい気分になったが、また和泉と言い合いになって日向の表情が曇るのだけは、ごめんだったので無言のまま睨みつける。 「自分に酔っている和泉くんは置いときましょう。はい、これ、ひなちゃんのぶん」  フォークでティラミスを半分にし、机の上に残っていた取り分けようの小皿に載せ、日向へ手渡す。 「ありがとう、絹香ちゃん」  ふたりは、ほろ苦い味のするコーヒーの粉がかかった軽やかなクリーム、そしてしっとりしたフィンガービスケットの層になっているケーキを味わった。 「ねえ、さあちゃん。ほかのメンツには、いつ、ひなちゃんとおつきあいを始めたって伝えるの?」  話を振られた朔夜は「穣の誕生日の席」と即答した。 「来週中にってわけ。いいんじゃない? 学校で言ったら、ひなちゃんの親衛隊長みたいな鍛冶くんが猛抗議して、委員長の心とよっちゃんが授業そっちのけになって、うるさいもん」 「そういうのを見越して、みんなが集まるときにしたい」 「そう。で、空は、どうするの? ひなちゃん」 「もちろん声かけるよ。友だちだもん。多分、光輝くんが『行くな』って止めると思うけど……」  この子って本当、さあちゃんのこと以外になると鈍感よね、と内心毒づき、絹香はティラミスを口へ運んだ。  転校生の空が、光輝の義理の妹だと知るやいなや皆、遠巻きにした。それは絹香や朔夜も同じ。  和泉たちのような上級生や下級生も、日ノ目家の人間とは関わり合いたくないと、距離を置いたのである。  そんな中、日向だけは、親同士の再婚によって光輝の妹となった空にも平等に接した。

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