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第1話
今まで知らなかった、こんなにも人に惹かれることがあるなんて。
「文弥 くん? どうしたの、顔真っ赤だけど……」
「きなりくん……どうしよう、僕」
カウンターの裏、お客さんには見えないようにずるずるとしゃがみこむ僕。
立ち上がろうにも膝に力が入らず、がくがく震えるだけだった。
慌てたようにきなりくんは僕に声をかける。
「何かされたんすか、あの客に」
「ううん、違う。あの人の、指が」
そこまで言って、ゴクリと唾を飲み込む。
「すごく、綺麗で」
ばくばくと早鐘を打つ心臓。
あの綺麗な指に、あの人の落ち着いた声に、『大丈夫です』と軽く手を挙げた姿に。
僕は跪かずにはいられなかった。
*
僕が立てない間、きなりくんは先ほどのお客さんのテーブルに新しいコーヒーを持って行ってくれたらしい。
しばらくして落ち着いた僕は、ちらりと視線を動かした。
遠目でもわかる、心臓を掴まれそうなくらいのオーラ。
ペコペコと頭を下げる相手に、にこやかな笑顔を向けている。
コーヒーを被った白い手袋は、いつの間にか新しいものに変えられていた。
「もう平気?」
「うん。ごめんね任せちゃって。きなりくんは、大丈夫だった?」
「ぜーんぜん。ただフツーの優男じゃん。まぁ顔立ち良いし、立ち振る舞いはちゃんとしてるけどさ」
周りに聞こえないくらいの声で交わす会話。
僕があの人から感じた衝撃は、きなりくんにはなかったようで。
「あの人、あんな風貌なのにDomなんだね」
「……いかつい、乱暴そうな人だけじゃないよ。ほら、マスターだってそうじゃん」
「ま、確かにねー。涼しい顔してクソ派手な趣味でも持ってるってこともあるだろうし」
少し気に食わなそうな顔をして言うきなりくん。
Domに対しての偏見は、いつも通りだ。
お客さんの声がちらほらと聞こえるカフェの中。
僕は一人のDomに釘付けになってしまった。
はじめての感覚に、今だに整理がついていないけれど。
力を見せつけられたわけではないのに、Subとして引き下がるしかなかった。
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