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第2話
ぽう、とはっきりしない頭のままで仕事をこなしていく。
気付けば先ほどのお客さんは会計に向かおうとしており、僕は慌ててレジに向かう。
「ありがとうございました、またお越しください!」
会計を済ませ、入り口から出て行こうとしてしまう。
背が高くて、かっちりした格好がとても似合う爽やかな人。
何もないのに声をかけることはできなくて、ただ笑顔で見送ることしかできなかった。
「文弥くん、なんか名残惜しそうだね」
「……カッコよかった」
「何、一目惚れ?」
きなりくんにそう言われ、こくりと頷く。
あそこまで自分の本能が声をあげた気がしたのは、初めてだった。
自分の欲を満たしてくれるのはこの人だって、無意識に感じたのかもしれない。
「……別に悪いとは言わないけどさ。相手は、ちゃんと選んでよね」
言葉だけなら、少し厳しいけれど。
きなりくんの表情を見ると、一方的に酷いとは言えない。
ここまで心配をかけてしまうのは、紛れもなく自分の所為だから。
「それに、あの人また来るんじゃない? 来月までのクーポン券持って行ってたし」
「本当!? きなりくん見ててくれたの?」
ありがとう、と言うときなりくんは困ったように笑う。
嬉しい気持ちを抑えながら、ぱたぱたとカウンターに戻る。
いつ来るかわからない、確実に来るか定かではないあの人。
それでも希望があるだけで、パッと光が射した気がした。
いつも心の底にある、暗い気持ちも忘れるくらい。
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