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「あさひさん、お迎えありがとうございますっ」 「いいえ、どういたしまして。あそこの人たちは友達?」 「はい。大切な、友達です」 僕がそう言うと、あさひさんはみんなの方に会釈をした。 背を向けていて気付かなかったが、どうやら3人とも僕たちをずっと目で追っていたらしい。 あさひさんに向かって頭を下げ、ひなたと寧は振り返った僕に手を振った。 肇もその2人に流されるように低く手をあげ、よく見ていた光景だと昔を思い出す。 「また今度ねー!」 僕も皆手を振って別れを再度告げた後に、あさひさんと歩き出した。 何も言わずにあさひさんは手を握り、肩がぶつかるくらいの距離になる。 そのまましばらく歩いていると、横から視線を感じた。 その感覚を辿れば、微笑んでいるあさひさんがいた。 「楽しかったんだね、ふーちゃん」 「はいっ。久しぶりに会えて楽しかったですし……すごく、安心したんです」 「みんな変わってなかった、ってこと?」 「そうですね……」 そう話しながら、もう1つと心の中で付け加える。 中学卒業後に皆と離れてから、色々あった。 僕はそれをどこか負い目に感じていたけれど……皆形は違えど“色々あった”ことを乗り越えていた。 1人じゃなくて皆も頑張っていたのだと思えたら、それでも心が軽くなった。 他の3人が経験したこともあるから、あまりあさひさんには言えないけれど…… 「それになりより、皆が幸せそうで良かったなって」 「そうか……よかったね、ふーちゃん」 頬を撫でてあさひさんが笑みを深くする。 この顔は愛おしいとわしゃわしゃ頭を撫で回される時と同じ顔だ。 家ではないから、かなり遠慮してくれたのだろう。 「そう言えば僕、クラスの大半からは『良い意味で変わったね』って言われたんですよね。逆にどう思われてたんだろう……」 「ははっ! まぁ良い方に捉えていればいいんじゃない? そういえば、中学時代のふーちゃんか……見たことないな」 「アルバムあったかな……今度見せますね」 やった、なんて呟くあさひさん。 それを見ながら、ずっと握られていた手に少しだけ力をこめる。 改めて言うのは恥ずかしいけれど、ちゃんと言いたい。 「……きっと、僕が変われたのはあさひさんのおかげです。あさひさんがたくさん愛してくれているから」 満面の笑みってこう言うことを言うのだろう。 そんな顔をしながらあさひさんは僕を抱き締めた。 「もう、それはお互い様だよ。俺も言われるもん、雰囲気穏やかになったって。それも、ふーちゃんが今みたいにまっすぐ気持ちを届けてくれるからだよ」 ポンポンと頭を撫で、「かわいいなぁ、ホント」なんて絞り出すように言うあさひさん。 その温かさに気が緩みかけたが……状況を思い出すと恥ずかしい。 人通りはまばらだけれど一応まだ外、2人のアパートはすぐ目の前。 「あさひさんすみません、外……まだ外なので! はやく家に入りましょう?」 そう言ってあさひさんの手を引き、僕たちの家に急いで帰った。

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