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前編★
「お前、しばらく見ないうちにいい身体つきになったなあ」
旧盆の夕暮れ。近所の川の浅瀬に脚を漬し、暑いとTシャツで身体を仰ぐその姿を見て、立川綾人は甥である慧の成長をしみじみ思った。そのシャツから見えるたくましい腹筋に釘付けになったのだ。適度に筋肉が付きながら、きゅっと引き締まったシルエットの腰つきは綾人の目を見張らせた。まだまだ若枝のような華奢な身体つきに、思わず視線を注いでしまう。
「なんかさ、バスケ部に入ったんだけど、勝手に筋肉が付くんだよ」
慧は今年十六になったばかり。母親である綾人の姉に聞いたところでは、自宅の近所の都立高校に入学したという。バスケ部に入ったとは初耳だ。
「若さってのは、なんでも栄養にするからな」
「じゃあ、やってればオレも背も伸びるかな! 綾兄みたいに!」
ぱっと表情を輝かせる。
毎日遅くまで練習をしていれば、食べたもの動いたことすべてが成長に繋がる年頃だ。慧はバスケをするには少し背が低い。それを気にしている様子だ。
「……それはどうだろうな。姉貴……お前の母親も父親もそんなに背が高い方じゃなかっただろ」
「むむむー。そうか……」
その反応が素直で可愛い。
「でも、たくましくなったよな」
「ほんと?」
綾人がそのように言うと、身体がぴくんと動く。小動物のように反応するのが、可愛く思える。そういえばこの子の父親もそんな雰囲気の男だった。
「昔は喘息持ちで俺の病院によく担ぎこまれていたじゃないか。ヒョロヒョロのもやしっ子だったのにな」
そう綾人が言うと、慧はやはり小動物のように恥ずかしげに目を背ける。
「もう……昔のことはいいだろ、綾兄」
綾人は楽しくなってもっとそんな表情を見たいと思うが、ここでやるのは可哀想だろう。
「まあ、昔があって、今があるんだからな」
そのようにフォローすると、慧の顔に笑顔が戻った。
綾人は立ち上がり、手をかざす。
「さ、そろそろ気が済んだか? 帰ってメシにしよう」
綾人が実の姉から、この旧盆の時期に一週間海外出張が入ってしまったと聞いたのは七月の終わりの頃だった。姉の夫はすでに亡く、姉と息子の慧との二人暮らしの母子家庭だ。綾人は夏休みで暇を持てあましているであろう甥の慧に対し、こちらに遊びに来ないかと誘うことにした。
「暇だろ、ならこっちに来たらいい」
なるべく気まぐれのように、軽く、重荷にならないように配慮して誘ったつもりだった。慧もそんな気軽さに惹かれたのか、二つ返事で行くと回答した。
しかし、実際に慧の来訪に熱心だったのは綾人だ。
綾人の職業は医師だ。実家から車で二十分ほどの総合病院に勤めている。普段は多忙なのだが、ぽっかりと旧盆の時期に身体が空いた。
独り身の気軽さから、過去に数回妻子持ちの同僚医師の夜勤を代わったりしていたことと、旧盆で多くの患者が一時帰宅することなどが幸いし、この時期にまるまる一週間ほどフリーの時間を得ることができたためだ。
その時間を、慧と共に過ごすことにした。
……といえば、聞こえはいいかもしれない。
綾人は、八年ぶりに会う慧のために、この一週間の時間を作ったのだ。
綾人の自宅は集落から少し離れた山の麓にある。とはいっても幼い頃から住んでいる実家だ。
年が離れた二人姉弟で、父親は数年前に亡くなった。母親も養護施設に入っている。そして姉は都内に慧と一緒に住んでいる。この昔ながらの平屋を守っているのが綾人、ということなのだ。もしかしたら、誰も望んでいるわけではないのかもしれないが。
近くの農協直営の野菜直売場で慧と一緒に夏野菜とスイカを買い、そのままスイカは自宅の冷蔵庫へ。育ち盛りの慧のためににトウモロコシをふかしてやり、その間に夕食を作る。慧も家事の心得があるようで、野菜炒めを作ってくれた。
「母さんがこれからの男は料理ができないとモテないよって言うんだけどさー。あれ、絶対自分がやりたくないから、オレにやらせてるだけだと思うんだよね」
そんな鋭い視点を見せながら手際よくフライパンを振って炒めた野菜を皿に盛り付ける。
「姉さんは、長女にしては要領いいしな」
綾人がそう言うと、慧も笑顔で大きく頷く。
「外面もいいよね!」
二人で台所に立ちながら、あははと笑い合った。
「このあたり虫が多いから蚊帳を張ったからな」
風呂から出てきた慧に、廊下に面した客間に蚊帳を張ったばかりの綾人が呼びかける。
その声を聞きつけた慧が、だだだっと廊下を走り、歓声を上げる。
「おおお! 蚊帳だ! すげー」
高めの天井から吊り下げた蚊帳は、それなりに都会暮らしの慧にはインパクトがあるようだ。はしゃいで蚊帳の中に入ったり、出たりを繰り返している。落ち着きがないなと呆れたが、あの年代の頃は自分もそんなものだったのだろうとも思えた。
「ここで綾兄も寝ようよ!」
綾人は自室があるが、なにやらキャンプみたいだと言っている慧には、仲間が欲しいみたいだ。
「え、嫌だよ。お前きっと寝相悪いだろ」
そう拒絶してみるが、慧はそんなことないからさ、と引かない。
「大丈夫だよ、この蚊帳の中、広いじゃん」
寝ようよー、楽しいよ、きっと!
という期待の目で見つめる慧の誘いに嫌々乗るという形で、綾人は慧と同衾することになった。
室内に風が通るように窓を開け、蚊帳のなかで布団を並べて二人で横になる。
綾人の隣からは、すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。はしゃぎすぎて疲れたのだろう。すぐにタオルケットを脚で蹴り上げたので、起き上がり慧に掛けてやる。
静かだ。
外からは虫の声しか聞こえてこない。お隣もかなり離れているし、このあたりを通る人間なんてまったくいない。車も通らない。目が慣れてきたため、横になりながら屋外に視線を持っていくと、月明かりに照らされた庭が見えた。
視線を転じると、すぐ近くに慧の寝顔が視界に入る。
あどけない表情。健康的に陽に焼けたキメの細かそうな肌。すっきとした頬から視線が流れる。
唇。
そっくりだ、と思った。あの人と。
そしてわずかに開いた口元から、赤い舌が見える。
綾人は、手を伸ばし、その唇に触れる。
やわらかい。
あの日の口づけもこんな柔らかかったっけ、などと思い返す。
今度は、それに自分の唇を軽く重ねる。
仄暗い罪悪感が胸に押し寄せ、やってしまった、と思った。
唇を離し、今度は慧の隣に横になった。深い眠りのなかにいるのだろう。起きる気配はない。
綾人の視界から、寝間着の襟元から覗く鎖骨が視界に入る。さらにその先にあるのは……。
自分は興奮していると、綾人は自覚していた。
今日一日慧を見ていて、身体の奥からたぎるような欲望があるのを無視できなかった。
慧はあの人に似てきた。あの人とは、亡くなった慧の父親の響のことだ。響に比べればまだ子供だし、響が漂わせた、どこかしらに漂うたおやかな印象はほとんどない。しかし面影がどうしようもなく被る。
気付けば視線で慧を追っていて、ああすればどんな表情を見せるのだろうと思ったのも一回ではない。正常な叔父の発想ではないと思っているが、止められない。
慧に欲情している自分がいる。
もしかしたら、響の面影に欲情しているのかもしれない。
そう自覚したら、自分が止められなくなった。
叔父という立場と信頼して隣で寝顔をを見せる慧への罪悪感を胸に抱きつつ、それでも、未知の世界に踏み込む好奇心と焦燥感を止められない。
もしかしたら、この場所で一歩、踏み出してしまったら、自分を止めることができないかもしれないと思う。それでも、その先の世界を見たいと思ってしまったのだ。
綾人は慧の身体を両脚で挟むように膝と手をつき、すやすや眠る慧を見下ろす。
まだ子供の表情が抜けないあどけない寝顔。これを自分は壊してしまうのかもしれない。大人げないにも程があるが、それでもいいと思ってしまった。
綾人はそのまま、慧の唇に自分のそれを重ね、食らいついた。
「んっ……?」
いきなり口を塞がれた慧が目を見開く。目の前に叔父の姿を見つけて驚いたようだ。しかし、すでに身体は綾人の両脚に挟み込まれ身動きが取れない。両腕で綾人の胸を押して身体を退かそうと試みているようだが、成長過程の男子が成人男性の身体を重力に逆らって押しのけようとしても無理であった。
綾人はのしかかる勢いそのままに、慧の、おそらくこれまで全く他人に荒らされたことはないであろう口腔内を愛撫する。唇と舌を使い、慧の顎を手で押さえ、逃げられないように固定する。綾人の肩を叩き、胸を押しのけようと努力をするが、そんなものは綾人にとっては大した抵抗ではなかった。
「む……ふぅん」
息苦しいのか、慧が切ない吐息を漏らす。
綾人は構わず、慧を拘束し続けながら唇を犯し続ける。綾人は慧の反応を見逃さないよう彼を見続ける。そんな視線に耐えられないのか、慧は目を閉じた。
「綾兄……なんでこんなこと……」
涙目の慧を綾人は見下ろす。
「お前に責任はないよ。ただ、俺好みに育ちすぎたかな」
半分は本音、そして半分は嘘。
慧が目を見張る。
「綾兄?」
信じられない者を見る目を向けてきたので、綾人も自嘲的な笑みを浮かべてしまった。
「怖いか?」
慧が縋るような表情を見せて、小さく頷いた。
綾人は慧の頬に手を当てる。
「俺はこれから慧が気持ちよくなることしかしないつもりだ」
「……きもちいいこと……?」
「そうだ」
「……なんで」
「慧のいろんな顔が見たいから」
綾人が腕を動かし、慧の脚の間に指を挟み込む。慧の身体が驚いてぴくんと動く。
「あっ」
他人に触れられない部分に、いきなり触れられ身体が驚いたようだった。
「そういう顔が見たいんだ」
綾人がそう笑うと、慧は困惑した顔を浮かべる。
「怖かったら、目を閉じていろ。いやなら、俺だと思わなければいい。他の誰か……、好きな女子のことでも考えていろ。すぐに終わる」
すると慧が驚いたように綾人を見返す。
「でも、次、目を開いたら、同意をしたものと見なす。覚悟を決めれば、これまで経験したことがないくらい、お前をとろけさせてやるよ」
「とろけ……?」
綾人は頷く。
「ああ、俺はお前が何も考えられないくらい気持ちいい思いをさせてやれるよ」
綾人は促すように慧のまぶたに手を添えた。
慧は素直に目を閉じた。
その上に軽くキスを落とす。
まだまだ子供だなと綾人は口元を緩めた。
そして再び、慧の唇に食らいついたのだった。
蚊帳の中の情事は始まったばかりだ。
綾人は目を閉じたままの慧の口腔内を蹂躙し、さらに、指をTシャツの裾をわずかにまくり、腹に這わせる。鍛えられた腹筋の上で、最初は指先で触れるように。慧の肌がわずかに動き、反応を見せた。指の腹で撫でるように、そしてトントンと叩くように、この指の動きを、慧が意識を向けるように。
そして、その指は、シャツの中に入り込んでいく。間違いなく慧は、この指を意識している。無意識だろうが、膝がもぞもぞと動いた。
その不埒な指は、Tシャツの中の肌を辿り、小さな突起に辿り着く。
その場所にさりげなく指が触れると、驚いたように慧は少し声を上げ、背をしならせ、肩を引き寄せた。
「あっ……」
目は閉じられたままだ。
綾人は何も言わずにその場所を指の腹で撫でる。慧はそのたびにもぞもぞと身体を動かしている。
「や……」
「昔、診察をするときに、お前のここはよく診たけどな」
懐かしく思って振り返る。
慧がまだこの近くに母親である姉と二人で住んでいた頃、小児喘息で夜間外来をよく受診していた。その頃はまだ小児科医として駆け出しの研修医だった綾人は、甥っ子を何度も診察していたのだ。その後、姉の仕事が都内で決まって、この町から慧は出て行くことになったのだが。
喘息による咳症状がひどくて目に涙をためてこちらをすがるように見てきた、幼い頃の慧の姿が今でも目に映る。こんなふうに健康に成長して良かったと思う反面、ここまで響に似なくても良かったのに、とも思う。
綾人がTシャツの中に手を入れて乳首を弄る度に、慧の両膝が少しずつ曲がり、もじもじとさせているのが分かる。吐息が徐々に熱を帯びたものに変わっていっている。
しかし、綾人はそちらには気付かないふりをし、Tシャツをたくし上げた。そして、そのまま乳首を口に含んだ。愛おしいその突起を、舌で包んで撫で上げる。
「あっ……!」
明確な声で慧が啼いた。
嬉しくなって、今度は舌の先で、その突起の先を抉るように突いてみた。
「ああっ!」
今度は両脚が浮いた。
吸って甘咬みして、弱い場所を突く。そんなことをしつこく繰り返し、慧の官能を少しずつ引き出していく。
綾人は決してそのほかは触らない。あくまで上半身だけを攻めていた。慧の右胸の乳首を執拗に唇で攻めながら、左乳首を指で摘まんだり、指の腹で捏ねたりして、リズミカルに快感を与えていく。
あ……いや……。
拒絶とは到底思えない、甘い喘ぎが綾人の耳に届く。
胸の周りにもキスを落とす。いや、落とすなんて優しいものではなく、綾人はその場所を吸い上げ跡をつけた。
そして、指は乳首を弄りつつ、快感を伝えながら、唇は胸から二の腕の内側の柔らかい皮膚を甘咬みし、肘の内側、手の甲にキスを落とす。そして首筋、耳の裏。若々しい香りがする。
そして最後には再び唇へ。
舌を落とし、慧の中に入れ込み唾液を交わす。くちゅくちゅ音がして、それがことさらに快感を誘うに違いない。慧の舌も綾人に誘い出されるように、それに応える。ふたりの唇の交歓が、最高潮に達したときに。
綾人は、慧の硬くなった下半身のその場所に、大胆に短パンの中に手を突っ込み、妖しい手つきで握り込んだ。
「ああっーー…!」
びんびんに緊張しきった敏感な場所に、いきなりの刺激であったのだろう。慧は背をしならせ、身体が一瞬飛び跳ねた。そしてその場所が、じわりと濡れた。どうやら、そのまま達してしまったようだった。
慧はしまったという表情を浮かべて、はっと目を開く。綾人と思わず目が合ってしまった。
綾人は笑みを浮かべた。
「お……オレ……」
「どうした」
「……」
「おもらしか?」
楽しげに綾人が確認すると、慧は口を噤んだ。
ちょっといじめすぎたか、と綾人は優しい口調に戻す。
「気にすんな。そういう風に仕向けたのは俺だ」
優しい声に安心したのか、慧が抱きついてくる。
「うう……」
言葉にならないのか、ただひたすらに抱擁を求めてくる甥っ子が可愛らしい。綾人は安心させるように、手のひらで慧の頬を包んで、軽くキスをした。
「気持ちよかったか?」
その回答は明白ではありながらもそのように問いかけると、再び慧は綾人の首にかじりついてきた。恥ずかしくて答えたくないらしい。
「驚かせたな」
背中を優しくさすりならが言うと、慧は無言で頷いた。どうやら高校生には刺激が強かったようだ。
気持ちが落ち着くと、慧は白濁にまみれてしまった下半身が気になるようで、身体をもぞもぞとさせている。
「気になるなら脱いでしまえばいい」
綾人は、もはや纏っているとは言えないTシャツと、濡れてしまった短パンと下着をそのまま脱がせる。慧はあれよあれよと全裸に剥かれてしまった。
適度に日に焼けた肌色が健康的で眩しい。その張りのあるみずみずしい肌と若々しい匂いにくらくらきそうだ。
慧は汚れた下半身をどうにか隠そうと必死だが、そんな努力を綾人の手が止めた。
「やっ……」
少し情けない声が上がる。綾人は構わず、慧を見つめた。
「ようやく目を開けたな」
すると慧は目を逸らす。
「……好きな女の子のことなんて……思い浮かばないよ」
「慧?」
「だって…気持ち良すぎて。他のことなんて考えらんない……。オレの頭のなかは……綾兄のことでいっぱいだ」
綾人は思わず慧を抱きしめる。この甥っ子が、愛おしくて愛おしくて仕方が無くなった。よくぞ、ここまでこんなに可愛らしく育ってくれたものだと思う。
綾人は教え甲斐がありそうだととても嬉しくなる。
「……思ってたより、適性があったな」
「え」
「いや。素直だなって思って」
「綾兄のせいだ」
「俺のせいか」
「うん。開いちゃいけない扉を開いた気がする」
綾人は苦笑した。その通りだと思い、質問を重ねる。
「怖いか?」
慧は小さく頷いた。
「……少し」
綾人は慧の金髪を優しく撫でる。
「大丈夫だ。何も怖いことはない」
綾人は頷いた。
「お前は、全部俺のせいにして、気持ちいいことだけを考えていればいいんだよ」
この蚊帳の中と外は別の世界だ。
だから、このときだけ、俺に全てを任せろ、と諭した。
綾人は素直に頷いた慧に囁く。
「言ったろ。次に目を開けたら、とろけさせてやるって」
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