2 / 3
後編★
綾人は慧を布団に横たわらせる。何も纏っていないこの甥っ子の身体は、すらりとしていて、無駄なものがない。
「綾兄……そんな見ないで……恥ずかしいよ」
慧は手で両目を覆ったが、それを綾人に外される。
「そうやって恥ずかしそうにしているのがいいんだがな」
「じゃあ……綾兄も脱いでよ」
「お前が脱がしてくれるか?」
綾人がそう言うと、慧は頷いて身を起こし、綾人のTシャツの裾を握った。綾人に腕を上げるように言って、慧は膝立ちになると、両手でTシャツを脱がしてくれた。上半身裸になった綾人の前に、慧の無防備な乳首が目に入る。思わずそれに食らいついた。
「あっ……」
驚きのけぞって後ろに倒れそうになるのを、奇跡的な素早さで慧の身体を両手で支える。
あっという間に、慧は綾人の腕のなかに収まってしまった。
腰を掴まれ、膝立ちのまま、慧の乳首が綾人の唾液にまみれる。慧の手が、綾人の首に回る。肌に爪を立て、時には叩き……逃すことができない快感を綾人に伝えてくる。
慧の脚ががくがくと震えている。その間にある、白濁にまみれて下生えから覗く性器は、ふたたび頭をもたげ始めていた。
慧は綾人の攻めに、大いに感じていた。
「触って欲しいか」
乳首から唇を放し見上げる綾人に、慧は顔を赤らめ、拒絶できない決断を下すように、苦しげに頷いた。
「じゃあ、横になれ」
綾人がそう指示すると、慧は素直に従った。
仰向けに横になった慧と目が合う。目が潤んでいて可愛らしい。
「綾兄ぃ……」
散々弄った乳首はその存在を赤く主張している。放置された股間が辛いのだろう、膝を曲げて脚をもじもじとさせている。綾人はその脚を開かせ、その間に身体を入れ、まずは慧の唇に軽くキスをした。
「声は押さえるなよ」
えっ、と戸惑う反応を慧が見せる。当然だろう。蚊帳の外は窓を開け放しているのだから、外に漏れ聞こえてしまう。
「大丈夫。聞いてるやつなんていない」
俺は慧が感じている声を聞きたいんだ、言葉を重ねる。
それでも躊躇いを見せる慧の胸を、綾人が妖しげに指を這わせる。
「はぁ……ん」
思わず慧が声を上げる。
綾人が慧を優しく見下ろして慧を褒める。
「よくできました」
慧は綾人が退くことはないと悟ったのであろう。諦めたような表情を浮かべる。
「大丈夫。こんな可愛い声を他の人間に聞かせるわけないだろう」
綾人は頬に右手を添えてもう一度キスをした。慧が小さく頷くのを見届けて、綾人はそのまま慧の左脚の膝裏を掴んで大きく上げ開いた。
「あっ……!」
驚いた慧が声を上げる。
空気にさらされ、慧のデリケートな場所が丸見えだった。ここだけは白くて柔らかな大腿の内側の肌。先程果てた白濁にまみれる下生え、そしてその中で大きく主張をする性器。その奥の場所も見える。
「やっ……」
口元を腕で押さえている。
「慧、可愛いぞ」
一気に硬く天を向いた慧の性器を、綾人は唇と舌と口腔内全体で愛撫する。
「ひゃあ……あん!」
慧の身体が震え、悲鳴が響く。綾人の鼻孔を刺激する青草のような若い匂い。くらくらする。
歯を立てないように優しく、リズミカルに、そして愛情を持っていたぶる。間違いなく、他人に咥えてもらう経験など初めてだろう慧の身体はもうコントロールが効かないほどの快感に打ち震えている。
綾人に止めて欲しいのか、慧の手が頭に触れてくるが、力が入らないのだろうまともな抵抗になっていない。
綾人が喉の奥に慧の性器を入れ込んでは、顎を使って愛撫を重ねる。震えるような袋も、指で揉んでは可愛がってやる。そのたびに慧の身体は素直に反応を見せた。
「あ……っ、やああ……っん」
喘ぎすぎて唾が飲み込めないようくらいに、慧は感じていた。
「とりあえずイけ」
綾人がそう言って、先端の柔らかいところを歯で甘噛みし、先端を舌先で抉る。
「あああああーーー……ん」
二度目の絶頂を慧は味わう。綾人は、慧が吐きだした白濁と搾り取るようにして飲み込んだ。
唇を離すと、慧の身体が弛緩した。力が入らないようで、酸素を取り込もうと大きく胸を上下させている。
慧の目には涙が溜まっていて、それがこぼれていた。
「大丈夫か」
そのように問うが、もしたとえ大丈夫ではないと慧が言ったとしても綾人はこのさきを止めるつもりはない。
慧は小さく頷いた。
「これからが本番だ」
綾人の言葉に慧はきょとんとした表情を見せた。
「……え」
「俺はお前を最後まで抱くからな」
その意味は慧にはよく分からなかったようだ。
「……最後?」
「そうだ。お前はこの場所に俺を受け入れるんだ」
そう言って、弛緩した両脚の間、力を失いうなだれる性器の奥の場所を、指でとんとんと叩いた。力を失っているはずなのに、慧の身体は跳ねた。
おそらく戦慄しかないのだろう。表情が強ばっている。綾人は安堵させるように、慧に話しかける。
「もちろん、いきなりは入れない。ちゃんと広げて慣らして、気持ちよくしてやるから」
慧に欲しがってもらわないと意味がないのだから当然だ。
「……広げて……ならして…?」
辿るように慧も繰り返す。
綾人はその場所を指の腹で意味ありげに撫でたり叩いたりと刺激を加える。そのたびに慧の股間がぴくんぴくんと反応する。とっさに膝を閉じようと力が働く。
「俺は嘘を言ってないだろ?」
汗で額に張り付いた金髪を、そっと指で拭ってやる。
「綾兄……」
慧が息を整えながら綾人を見上げる。
「ん?」
優しく問い返すと、慧は覚悟を決めたように綾人を見返した。
「オレ……男だよ?」
「それがどうした?」
慧が言わんとしていることは分かる。だからこそ、即答で問い返す。そのように言い切られると次の言葉が継げなくなる。
「慧は俺に触られて、気持ち悪いか?」
綾人にそう問われて、慧は何かに気がついたような表情を見せる。
「……ううん」
「気持ちいい?」
慧は少し考え込む。
「……うん」
「じゃあ、問題ないだろ」
綾人は軽く流した。すると慧もそうかと頷いた。
この素直さ、さすがに血筋を感じるな、と綾人は思う。
綾人は慧に身体を捩ってうつぶせになるように指示した。
慧を膝立ちにさせたまま俯せにし、尻を高く上げさせた。顔のところに枕を当ててやり、脚を少し開かせる。綾人は、両手の指で目の前の双丘を分け開く。
その場所はきゅっと締まったストイックな姿だった。
人差し指の腹でくりっと撫でてやると、驚いたようで腰から全身へと慧の身体が揺れた。慧は宛がった枕を両腕で抱えて、顔を押しつけていた。くぐもった声がわずかに上がった。
綾人はその場所に顔を近づけ、舌先で蕾を抉った。
「あっ……ぁぁん!」
驚いた慧がぐっと腕に力を込め、シーツを握ったのが視界の端に映った。
構わず綾人は、きゅっと締まったその場所に、ぐりぐりと舌で攻め立てる。
言葉にならない喘ぎが慧の口から漏れている。絶対に舐められることがない場所に舌を這われている。腰が逃げ気味だが、綾人ががっつりと大腿を掴んでいて離さない。この快感から易々と逃してやるつもりはなかった。
慧のその場所は綺麗なものだった。白い双丘から控えめに見えるその場所。ちりちりと舌を入れ、そして指を這わせる。
声にならない喘ぎが綾人の聴覚を刺激する。
あまりに綾人が与える快感が強すぎたのか、慧が腰を振って快感から離脱を計ろうとする。
綾人はそれを阻止するために、慧の腕を掴んで、少々強引に仰向けに体勢を変えさせる。さらに、両膝頭を掴んで脚を開かせながら、高く掲げた。慧は体勢を支えるために、両手でシーツを握らざるを得ない。綾人はわずか数秒で、慧が抵抗できない体勢に持っていってしまった。
若い身体はしなやかだ。膝を曲げさせて、その場所がくっきりと視界に晒された。慧にとっては恥ずかしく、屈辱的な体勢だろう。
「やああ! あや……にぃ」
綾人は身体をずらして、その悲鳴を唇で吸い取る。
「大丈夫だ。怖いことも痛いことも辛いこともしないから」
いい子にしておいで、と唇に指を添えた。
客間のサイドボードの引き出しに入れてあったチューブジェルの蓋を器用に片手で開ける。自分の腕にそれを出し、しばらく指で温めてから、慧のその蕾にたっぷりとすりつける。
「あっ……!」
驚いて身体を揺らす慧を、綾人は性器を慰めつつ宥めながら、ジェルのぬめりで、その部分を優しく解す。人差し指で回りをマッサージして、くりっと撫でるようにその場所を穿ってみる。
「ああっ!」
慧が背中をしならせ、その場所がぎゅっと絞られる。
さらに快感に素直な性器が、くっとわずかに上を向いた。その反応を見て、綾人の中心はぐっと硬くなった。
丹念にその場所を解し、同時に慧が敏感に反応する場所を探していく。慧が苦しいと訴えるので、腰の部分に枕を入れ込み、両脚を綾人の肩に掛ける。
自分の局部が綾人の目線の近い場所にあると気づいてしまった慧は、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
「あ……ぁああん!」
甥っ子とは思えないほどの色気のある嬌声が上がる。あまりに刺激的な行為なのだろう、綾人の行為を止めさせたいようで、その場所に手を伸ばし、綾人の手をのけようとする。綾人はそんなことをする子にはお仕置きと言わんばかりに、先程見つけたばかりのその場所に指を掠めた。
「ああああーーー」
高い嬌声が響いた。外に繋がっているなんて、もうこの子には意識がないのだろうと綾人は思う。そこまでこの行為に乱れているということに、この上ない満足感を、綾人は覚えた。
「いい声出すな」
慧の目には涙があふれている。先程イったばかりなのに、性器はすでに大きく頭をもたげており、色気を見せつけるように漏れ出る先走りの涙とともに、大きく快感を得ていると綾人に伝えてくる。
綾人は再びその場所に指を掠めると、慧の身体が大きく波打った。
「あーーーーーっ!」
その張り詰めたような性器から白濁が、どぷどぷっと放出され、慧自身の肌を汚す。慧は赤い乳首を上下させて息を整える。
しかし、綾人の指はまだ挿入されたまま。その弛緩に乗じて、一気にその奥に突き進んだ。
「はっ……」
いきなり襲われた衝撃に、慧は身体を硬くした。指を徐々に増やし、ジェルのぬめりと相俟って、慧のその場所は難なく指を受け入れ、慧は嬌声を上げる。
その場所を指を使って丹念に解し、広げて己が入る場所を作り上げていく。奥まで指を入れ込むと、慧が身体を揺らして切ない声を上げた。それに合わせて、綾人は慧の性器にも触れて可愛がり、後ろと前を同時に刺激を加え、慧を快楽の湖に突き落とす。
そこに、ゴムを装着した綾人自身が貫いた。
「やぁ…っ! あっん!」
慧のの背中がしなり、綾人の性器の根元が慧の臀部に密着した。
綾人は恍惚とする。
慧の中は狭くてキツい。が、快感を得てうねる体内が、溜まらない。大きく張った性器を、すべて絞り取られそうなほどだ。
「あ……あや……にぃ」
慧は目を開いて綾人の名を呼んだ。彼が、抱かれている相手を認識している証拠だ。叔父にこんなふうに、半分屋外のような場所で無理矢理抱かれて、どんな思いを持っているのだろうと思う。
慧相手に酷いことをしている自覚は綾人にはある。まだ年端もいかない……身体は大人でも、心はまだ子供だ。
だから、快感を教え込んでやろうと思った。自分しか見えないように。こんなに気持ちいい行為を与えてやれるのは自分だけであると、すり込むように。
綾人は慧のなかで、彼に包まれて恍惚とする。これはであまり保ちそうもない。腰をくいっと突くと、慧が、あられもなく啼き声を上げる。もうそれは高校生のものとも思えないほどの艶めきを含んでいた。
このタイミングで間違いなかったようだ。
腰使いで慧を追い込みながら、綾人は思う。
慧を、さなぎから蝶に羽化を迎えさせるのならばこの時、この場所で、自分によってなのかもしれないと、そんな予感が過ぎったことがあった。
「あ……ああ……ん」
慧が言葉にならない喘ぎを漏らす。
綾人は、目の前であられもなく乱れ、意識を飛ばしかけている慧を見つめる。こんなに必死に自分だけを求め、全身をもって感じてくれている。これほど尊く愛おしい存在があっただろうか。
そんな感情が胸に押し寄せると同時に、響によって羽化させられた自分のその日の姿が、慧と被った。
綾人が響と出会ったのは、中学最後の冬だった。八つ年上の姉の友人として紹介されたのがきっかけだった。男勝りな姉に、こんな穏やかな表情を浮かべる男友達がいるなんて、にわかに信じられなかった。
響は北海道出身で、地元の風景に似ているというこの町にIターン就職でやって来たと聞いていた。単身者用のマンションもないような田舎なので、一軒家の平屋を借りて住み、地元の小さな広告会社に勤めていた。
綾人が高校に進学した年の夏。響に自宅に泊まりに来ないかと誘われた。ひと回り年上の響の話は、綾人には物珍しい興味深いものばかりで、姉に煙たがれるほどに懐いていた。綾人は、二つ返事で了解した。夏休みも後半にさしかかった旧盆の休日だった。
そこで綾人は響に抱かれたのだ。
同じように、蚊帳が釣られたその部屋で、綾人は響に貫かれた。
「綾人は、全部僕のせいにして、気持ちいいことだけを考えていればいいんだよ」
響に耳元でそのように囁かれた。
この蚊帳の中と外は別の世界だ、と。
だから、このときだけ、僕に全てを任せて、と誘われ、綾人は素直に頷いた。
「次、目を開けたら、僕を受け入れたと見なすからね」
響にそう言われて、身体中に愛撫を受けた。どうなるのか怖かったが、綾人にとってはこの退屈な毎日の中で、響を喪う方が怖かった。
綾人は目を開き響を見つめ、彼を受け入れた。
綾人は、その夜慧を寝かせることはなかった。
ふたりの営みが…、いや、綾人が慧の身体を貪ることを止めたのがもう明け方だった。せめて慧を風呂に入れてやろうかと思ったが、そのまま気を失うように寝てしまったため、タオルで身体を清めてやった。
昼過ぎに起きた慧を、綾人は再び抱いた。与えた快感を、慧が忘れてしまわないうちに、塗り重ねて刻みつけるように。この身体を満足させてやれるのは、自分だけだと慧に教え込むように、ためらいなく快感の波に放り投げた。
慧は何を考えていたのだろうと綾人は思う。従順に、耳元で囁く言葉を、綾人が教え込むことを、ぐんぐんと吸い込むように学んだ。もともと素直な性格なのだ。快感を素直に表現したことを、綾人が褒めると、嬉しそうな表情を浮かべる。思いがけず知ってしまったキモチイイコトに、躊躇いなく夢中になっている様子だった。
ふたりの情事は早々に蚊帳の中だけでは飽き足らなくなり、二人でシャワーを浴びながら求め合い、翌日の夜には睦み合う場所は綾人の部屋に移動した。
三日目にもなると、慧は綾人自身に興味を持ち始めた。自分が気持ちよくよがるだけでは足らないのか、自分もやってみたいと感じているようだった。綾人が慧にしてやるように、慧が綾人のものに奉仕したいと言い出した。
「無理しなくていいぞ?」
そのように言ってはみたものの、綾人は慧のやる気に便乗するととっさに決めていた。
「……ううん。オレも綾兄を気持ちよくさせたい」
オレにしてくれたように……と健気なことを言ってきて、思わずくらりとしそうになる。
綾人は慧の頬に指を這わせ、じゃあどうしたらいい? と優しく問う。慧は綾人にベッドのヘッドボードに寄りかかるように言った。
綾人がそのようにすると、慧は躊躇いもなく綾人が身に着けていたスウェットと下着を、腰を浮かせた綾人に手伝ってもらい引き下ろす。
自分のものとはまた少し違う、大人の男のその場所をまじまじと見つめ、慧は息を呑んだ。
おそらくそのビジュアルに圧倒されているのどあろうと思う。
「大丈夫?」
綾人は努めて優しくそう問うが、この甥っ子はたとえ大丈夫ではなくても意地を張ると分かっていて、あえてそう聞いた。案の定、慧は首を縦に振る。
綾人な内心にんまりとして、両手をかざし慧を抱き寄せた。
舌と唇を交わし、くちゅくちゅと卑猥な音を立てて性感を煽る。
唾液が漏れるほどに響の口腔を堪能すると、慧は唇を放して身を起こし、膝を曲げて両脚を少し開いた綾人の前に座り込む。そして綾人の性器に恐る恐る触れた。
そこはまだくったりと力を失っており、慧はどうやっていいのか分からない様子だ。綾人は、慧に自分がやられたら気持ちいいと思うように扱ってごらんとアドバイスをしてみた。
すると慧は、自分にも同じものが付いているのだと改めて認識したようで、目がきらりと輝いた。
慧は綾人の性器を優しく愛撫しはじめた。先端に口づけをし、そのたどたどしい舌で、先端を舐める。突如柔らかいものに刺激を受けて、綾人も驚き、性器に少し熱が集まる。
それが嬉しかったのだろう。慧は唇と舌を使う。そんな健気な仕草に綾人の性感も刺激される。一生懸命綾人をその気にさせようとする慧が可愛くて、綾人は自分の股間に顔を埋める慧の髪を優しく梳いた。
慧は飲み込みが早い。
「……うん、そう。筋を舌先でなぞって……。ん、いい子だね……」
息が上がりかかるのを耐えつつ、慧にいい場所を教え込む。股間をのぞきこむ金髪を撫でながら、綾人は慧が与える快感に身を委ねる。
慧はさほどの時間がかからずに、綾人が不意に見せる快感のポジションを上手く拾って、そこを突いてくるようになった。
なにもかもが初めての経験になる慧の舌技は、綾人に教え込まれたとしてもまだ拙い。しかし、一生懸命に気持ちよくさせようとしている慧の姿を見ると、綾人が溜まらなく興奮するのだ。
綾人はその夜果てることはなかったが、慧の上達は早く、もともとが器用であもるのだろう。綾人の身体を張ったレクチャーを、難なく自分のものにしていき、四日目になると、綾人に最高の世界を見せつけ、初めて綾人は慧の口腔内で中で果てた。
綾人にとって、響との関係を作ることで心が満たされたことはなかった。
綾人が響との関係を受け入れてからしばらくして、姉が響と婚約をしたと聞いた。
綾人は何も言えなかった。
わずかに姉に申し訳ない気持ちが浮かび、それと同時に響への疑念が沸いたが、誰にも相談できず、胸に押し隠した。すべて響のせいにした。全部僕のせいにしろと、彼がそう言ったのだから。
しかし、疑念は消えることなく、年を重ねるごとに逆に膨らんでいった。
綾人は、響から逃げるように、医大を受験し地元を離れたが、関係が清算されることはなかった。慧が生まれても続いた。
いや、むしろ地元から距離を置いたからこそ、肉体の関係は燃え上がり、何日も互いの身体を貪り合うようなこともあった。
それなのに。身体とは裏腹に、綾人の心にこの関係は大きな重荷になっていく。
響を求めるのに、失えないのに、どうにもならないほどに膨れあがった疑念がある。いつかは終わらせないといけないという焦燥もある。
身体だけの関係だったら楽なのに。
そんな空っぽの関係に戻れないのに、進むこともできず、決断することもできず、その日は突然来てしまったのだ。
響の事故死を知ったのは、事故当日の深夜。両親からの連絡によってだった。
突然、最愛の男が姿を消し、何もかもが終わった。あの喪失感は身内を失った悲しみとまた少し違うのかもしれない。
以降、綾人の響への思いは、ずっと宙ぶらりんのままだったのかもしれない。
「綾兄……」
そう呼びかけられて、肩を揺すられて、綾人は自分が眠っていたことに気がついた。
目の前には金髪の慧。
ふたりとも裸で、慧は仰向けに眠っていた綾人の胸に乗りかかっている。
「…ん…。寝てたか……」
「うん」
嫌な夢だった。
久々に思い出した。
慧は明日帰る。最後の夜だった。結局、この一週間、外で遊んだのは初日だけで、あとは家に籠もって互いを求めあうばかりだった。食事と排泄と風呂という最低限のことしかせず、ひたすら綾人が慧の身体を求め、慧が綾人の教えを実践していたという感じだ。
最初は慧も戸惑っていたが、あまり深く考えるタイプではないようで、じきに状況を素直に受け入れていた。それでいいのかと思ったが、かつての自分も慧の父親にそのようにされて同じような反応だったのだから、これは血の成せる業なのだろう。
「ねえ」
慧が綾人の唇を求めてきた。それに応えながら、綾人はぼんやりと思う。
綾人にとって慧はいくら響の息子といっても、血が繋がった甥である。まさか欲情するとは自分でも思っていなかった。
なのに、再会して、ちらちらと慧からのぞく響の影。やはり血が繋がった息子だと思ってしまった。
きっと、息子だから、欲情したのだろう。
「綾兄」
慧が無邪気な目を向けてくる。
「ん?」
「綾兄はゲイなの?」
ここまで来ての意外な質問。
「……まあ俺は、男でも女でも」
すると、慧は驚いた表情を見せる。
「え、両方行けるの? それって節操ないね」
容赦のない評価に、綾人もそうだなと苦笑する。
「でも、もう慧しか抱けないな。それくらいお前に溺れている自覚はあるよ」
慧は今ここにいる。それで充分だった。
思いも寄らない告白だったのだろう。慧は照れを隠すように視線を逸らす。
「……じゃあオレはもう女の子とどうにかなるとかないのか」
その反応を可愛いと思う。だから素直に頷く。
「そうだな。残念ながら」
かなり酷いことを言っている自覚はあるが、その通りだ。慧を手放すわけにはいかない。
「オレの人生、これからは綾兄に抱いてもらうしかないのかなぁ?」
長い人生だ。今後、慧も抱きたいという欲求を抱くこともあるだろう。だから抱かれるだけとは限らない。
間違い無いのは、綾人はその抱かれる相手に嫉妬するだろうということ。
「もちろん、お前の筆おろしは俺がいただくつもりだ」
「え?」
その言葉に、慧が驚く。
綾人は笑ってみせる。
「俺はタチでもネコでも、どっちでも行けるんだ。だから、お前がしたい方でいいんだよ」
いくら節操なしのバイセクシャルでも、誰でもいいというわけではない。綾人にとって抱きたい人間と抱かれたい人間は明確に違う。
響は抱かれたい相手だった。
慧はどちらでもいい。
抱いても抱かれてもどちらでもいいと思える相手には、これまで出会ったことがなかった。
それが綾人にとっていかに衝撃だったことか。
「俺の全てをお前にやるよ」
綾人は顎を取り、惚けている慧に口づけする。
俺は、慧にならば、喜んで抱かれてやるから。
【了】
ともだちにシェアしよう!