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第98話

そんな疑問に対して、光森が答えるように言った。「実は、お話ししたかったのは、一緒にホテルに泊まっていた人間についてです」 「一緒に泊まっていた人間」と東城は言葉を繰り返した。 「はい。わたしと同じホテルに泊まっていたのは二人です。一人はアメリカ人の投資家で、会社のお客さんでした。彼は、こんなことになってしまったので、怒ってしまって既に帰国しています。彼との取引はダメになってしまうと思います」 東城は、アメリカ人の名前や仕事の内容を詳しく聞こうとした。 だが、光森は知っていることは後で全部話します、と言った。 「彼のことよりも、もう一人のことが、気になるんです。彼は、日本人で、私と同じ会社に所属しています。でも、会社からホテルに聞いてもらったんですが、彼はいなくなっています。どこに行ってしまったのか。どこかに行く必要はないのに。会社に連絡もないそうです」 東城は光森の話にうなずいた。光森は自分に何を言いたいのだろうか。 「何か、事件に巻き込まれていないといいのですが。わたしを殴った男が連れ去ったとか、そういったことはないでしょうか」 心配そうな声だが、どこか上の空のようでもある。 東城は、首をかしげて見せた。「特にそういった話は聞いていませんが、どうしてそれを自分に聞かれるんでしょうか。早く所轄に話していただく方がよかった。捜索は早い方がいい」 「ああ、それは」と光森は言いよどむ。「ホテルにいないのはどこかに出かけてるだけかなって、でも戻ってこないって聞いて。それに、その、ここに来て色々聞いてくる刑事さんたち、あまり、親切じゃないっていうか、本気じゃない感じだったんです。それで、俺を助けてくれた人なら話をきいてくれるかなって」と光森は言ったのだった。

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