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第1話「表の顔と車内の秘密」

「今日の収録はこれにて終了です! お疲れ様でした~」  あちこちで湧き上がる拍手と安堵する声。気がつけば時計の針はてっぺんで仲良くくっついている。ピンと張っていた背筋が一気に丸くなってしまう。 「お疲れ様です、YUYAさん」  後ろから聞こえる馴染みある声に振り返る。 「ありがとう。笹本さんもお疲れ様」 「家まで送りますから着替えてきてください。私は車回してきます」 「うん、よろしく」  いつも通りの流れを改めて確認して楽屋に戻る。  芸能人として生きていると労働時間なんて関係ない。今日は割と早く切り上げることができた。とは言え、早く終わったから……と、これから遊びに行けるような友達もいない。ただ毎日、職場と自宅を往復しているだけ。それゆえ、生活の中で一番長く時間を過ごしているのはマネージャーである先程の男“笹本 司”。有難いことに、女遊びをしている暇もないほど忙しい。  よく現場で一緒になる俳優からは「女気がなさすぎてソッチ系の噂立ってますけど大丈夫ですか?」と、心配される始末。  ソッチ系だったらなんだって言うんだよ。なんて口が裂けても言えないけど。 * * *  裏口の前に停めてある車の助手席に乗り込む。  大好きなバンドの曲が流れている車内に心が落ち着いた。 「はぁぁぁ……疲れた」 「お疲れ様です」 「……ねぇ、その口調もうおしまい!」 「せっかちだね、君は」 「だって……早く」  まだ喋っている途中だというのに唇に柔らかさを感じる。目を閉じゆっくり息をするように口を開くと温かな舌が口内をなぞりあげた。 「ッ……ん……もぅ……」  途切れ途切れな言葉を繋げるも唇を甘噛みされる。  突然の刺激に身が震える。疲れなのか、眠いのか、はたまた心地よさからか? 少し重たくなった瞼をうっすら開けて抗議の視線を送ると男はゆるりと離す唇の端をくいっと上げて微笑んだ。 「俺だけに見せる顔、見せてよ」 「……それ、俺が言おうと思ったのに」  そう、俺はこの顔を見る為に毎日仕事している。 「と……言いたいところですが、続きは帰ったらですよ?」 「は!? つーか、口調戻ってんじゃん!」 「ははは、まだ送迎途中ですからね。これは仕事です」 「ふーん……でもでもでも恋人とドライブデートしたいいい!」  「我慢してください」と、言われて車が発進する。  なんだよ、期待させやがって。  テレビの中の俺はいわゆる二枚目キャラ。今年は抱かれたい男ランキングにランクインした俳優。それなのに、実生活はマネージャー兼恋人のドS男に弄ばれて喜ぶ男だなんて……絶対に言えない。  この言えない関係こそが俺の毎日の楽しみ。原動力。

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