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第2話「抱かれる側が似合ってる」

* * *  夜が更けて静まり返ったマンション。  二人でエレベーターに乗り込み隣に並ぶと徐々に肩の力が抜けていく。  自然に繋がれる手がやけに熱っぽい。 「これ、何」 「ん? こっからは仕事じゃねぇし」  俺より7歳年上。身長も7cm高い。少し上目遣いをしなければ目を合わせられない感覚にいつも胸がときめく。マネージャーの顔ではなくなった少し気だるげな顔は相変わらずカッコいい。 「何? じっと見て。キモイんだけど」 「キ、キモ!? 仮にも俺、巷で話題のイケメン俳優だよ!?」 「知るか」 「……司くん、口悪いよなぁ」 「仕事の口調も嫌で、こっちはこっちでお気に召さない感じ?」 「いや、好き」 「なんだよそれ」  鼻で笑いながらも繋がれた手にギュッと力が込められる。献身的に支えてくれるマネージャーとしての彼を知っているからこそ、こういった一面は意外で最初は驚いた。でも、そんなギャップに弱いんだよなぁ……俺。 「俺がカッコよすぎてお前が惚れてるのなんか最初からだろ」 「うん……え、なんで知ってるの? てか、俺そんなこと言った!?」 「顔に書いてあんだよ」  額に一つキスが落ちると同時にエレベーターは目的地に辿り着いた。 * * *  部屋の中は必要最低限の物しか置いていない。  ペアのグラスと歯ブラシ、二人眠れる程度のベッド……二人で住むのに必要なものがあるくらい。 「司くん、ビール飲む?」 「飲む~」  キッチンから呼びかけられるこの言葉は楽園への入口。  今日はもう寝るだけ。でも、このまま眠りについてしまう人生なんて味気ない。  仕事終わりのビールは最高だ。しかも、いつも自分が献身的に支えている男に尽くしてもらえる……まさに俺にとっての至福の時間、生き甲斐となっている。  ソファにグデッと座っている俺の隣へビール缶を二本持った勇也がちょこんと座ってきた。 「よっしゃ飲むぞ!」 「飲むぞ!!」  プシュッと心を解放させる音を鳴らしアルミ缶をぶつけ合う。 「あ゛ぁ……美味い」 「ん……幸せ……」  のけぞりながら肩にもたれかかってくる勇也の髪からフワッと甘い花の香りが香る。 「シャンプー変えた?」 「気づいた? スタイリストさんにオススメしてもらった」 「へー」 「どう? 好きな匂い?」 「んー……新人アイドルみたいな初々しい匂い」 「え~何それ!」  顔をクシャッとさせながらケラケラ笑う。  テレビの中では二枚目俳優なんて言われ持て囃されているが、家の中では犬みたいに無邪気に笑って、構わないとたまに不貞腐れる。でも、何事にも一生懸命で真面目なしっかり者だ。そんな隣でケラケラ笑っているコイツがどうにも愛おしくて放っておけないし支えてやりたいと思ってしまう。  それに、ケラケラ笑っていたかと思えば、次は真剣な顔でこちらを覗き込んでくる。  相変わらず俺の顔を覗き込むことが多い。こうして顔を見るとたしかに抱かれたい男ランキングに入ってもおかしくはない端正な顔立ちだと思う。家での言動を知っているからか、コイツに抱かれたいと思っている女を抱ける素質があるとは思えないけど。 「……あ! 司くんさぁ、今、俺とエッチなことしたいって思ってない?」 「は!?」  人差し指をピンッと勢いよく立たせながら自信満々に言い放つ。 「あれ? 違った?……俺も『顔に書いてあるぞ』って、やってみたかったんだけど」 「お前って……馬鹿なの?」  あまりにも突拍子のない発言に目を丸くしてしまう。次第に笑いがこみ上げてくる。  そうだ、先程のコイツの家での行動にプラスするならば少し天然バカが入っている。 「結構真面目に考えてたんですけどぉ」 「俺はいつでも勇也とエロイことしたいって考えてるよ」  顎を掴み顔を近づける。 「!?……な、なんで司くんはいつもそんな恥ずかしいことを恥ずかし気もなく言えるの!?」 「さっきから“なんで”が多いな」  頬を紅潮させながら合わせた視線が逸らせなくなっている勇也はとても可愛い。目をぱちくりさせて逃げられずにいる。  これじゃ抱かれたい男にランキング入りしたって抱けるものもだけないだろう。  コイツは抱かれる側が似合っている。

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