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第4話

 夏迫は2回目のナイトミュージアムを乗り切った。21時を過ぎると、シンデレラよろしく声がセクシーな学芸員からやや草臥れた40手間の男になった。隣には銀髪ではなく、金髪のアーサー氏がいて、これから何と鉄板焼きデートをしに行くことになってしまっている。  というのも、 「あとぅしは牛肉がなさすぎるよ、もっとぜい肉や筋肉を食べなきゃ」  等と、ところどころ合っていて、ところどころ間違った日本語で言われたためだった。 ちなみに、牛肉ということで、ステーキは勿論、焼肉やしゃぶしゃぶまで候補にあった。 だが、夏迫の勤める博物館から一番近いホテルの最上階に鉄板焼きのレストランがあるらしい。今日はその店に決定すると、夏迫は金髪の美青年と夜景を見ながら肉が焼けるのを待っていた。 「昔から食べても筋肉とか脂肪がつきにくい体質なんだ……いや、体質なんですよ。しかも、もう結構、年だから肉もあまり食べられないし」  アーサー氏は話す日本語は少々たどたどしいが、意味は完全に理解できるらしい。夏迫は1週間前とは違い、殆ど英語は話さなくなっていた。 ただ、見た目は18歳と若いアーサー氏だが、その享年は99歳である筈だった。  だからか、夏迫はタメ語と敬語が混じった独特の日本語を話していた。  例えば、 「別に敬語じゃなくて良いのに。そう言えば、あとぅしは何歳なの?」 「今年で40です。 あ、40……かな?」  という感じだ。  夏迫達は腰をかけるカウンターの先にある鉄板では顎のラインがすっきりとしたシェフが夜景をバックに、鮮やかに牛肉を角切りにする。ステンレス製のナイフやヘラのぶつかり合う音は響くが、その音は静かでアーサー氏の声も夏迫には聞こえない、なんてことはなかった。 「えっ、日本人は童顔だって言うけど、意外と親……子? と年が近いんだ」   アーサーは一瞬、単語に詰まると「親子」と声に乗せた。  おそらく、アーサー氏は「夏迫は息子のハーバード氏と年が近い」と言いたかったのだろう。夏迫はアーサー氏よりもさらにたどたどしい発音で言った。 「Parent and Childじゃなくて、Sonじゃない……ですか?」 「ん?」  夏迫は「Parent and Childは親子で、Sonなら息子です」と説明する。  それに対して、アーサー氏は「そうだそうだ」と笑って、焼き上がったぜい肉や筋肉、もとい牛肉を口にした。

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