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第6話

2018年8月3日PM9:10。 「失礼いたします」  全ての来館者が帰り、秋月も帰りますと夏迫がいる事務室のドアを叩く。  夏迫の手には来期に展示する焼き物に関する資料が握られていて、そろそろ老眼鏡が必要かな、なんて思っていたところだった。 「ああ、お疲れ様です。解説、凄く良かったよ」 「え、本当ですか? ありがとうございます!」  夏迫の言葉に秋月の顔がぱぁっと明るくなる。彼女は明慈大学の2年生で、将来は学芸員になりたいのだという。若く、聡明で、一生懸命な姿勢の彼女は夏迫にとってはただでさえ、口の狭い自身の雇用を揺るがす存在ではあるのだが、夏迫は彼女の夢が叶えばと思っていた。  そう言えば、アーサー氏はもし、自身が富豪でなければ、画家になりたかったのだという。叶う夢がある一方で、財力や容姿、人より恵まれたものがあっても、叶わない夢があるということを夏迫は思うと、秋月が事務室のドアを閉めてから、飲みかけの珈琲を流しに捨てた。

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