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第33話

席に着いた途端北園はこちらへと歩みを進めてきた。必要な資料でもあるのだろうか。 目の前に来た北園は、俺の方へ向かって真っ直ぐに手を差し出した。 「仕事、半分下さい。手伝いますよ」 あろう事か俺の仕事を半分もらおうとする北園。自分の仕事が残っているだなんてのは口実で、実は俺の仕事を手伝おうをしていたのか。気持ちは嬉しいが、俺は社員の勤務時間外を俺のせいで潰したくない。 「また社員のプライベート時間を邪魔したくないとか言うんですか?」 すっかり心を読まれてしまえば「うっ」とくぐもった声とともに眉を下げるしかない。いや、俺の口癖のようなものだし、バレてしまうのも当たり前か。 「その言い訳なら俺に通じませんからね。社長の、俺の時間は要斗さんのものだし、要斗さんの時間も俺のものですから」 にっ、とまるで子供のように笑う北園のキザな言葉は、意外にも心に大きく響いた。一気に顔が赤くなると、それを隠すように椅子を後ろへと回す。なんで毎度のようにこいつは。こんな性格のくせに、言うことはいつもキザだ。 「さて、仕事しましょうか」 俺が照れているのに気づいたのか含み笑いのまま、北園は俺の机の上のプリントを半分ほど持っていった。こんなにも簡単に負かされてしまうとは、これからが大変だ。 黙々と仕事を進め、早くも一時間程度がたっただろうか。時計を確認して驚いた。手元の仕事も三分の二ほどが終了し、あとは少し。ラストスパートだ。少し奥の北園を確認しても俺と同じほどの量しか残っていない。やはり仕事で一番頼れるのは北園だと確信した。そもそもいつからだろうか。北園に任せていた仕事を遼河に任せるようになってしまったのは。元々遼河のコミュニケーション能力は認めていたし、接待に出せば成功を収めてくる。だからと言って全ての手柄を遼河に与えてしまったのは、多少は私情が混ざってしまっていたのではないのか。北園にも大変な思いをさせていただろう。 「社長?どうかしましたか?」 俺の視線に気づいたのか、北園がこちらへと視線を向けた。手元のライトしかつけていないオフィスは薄暗く、顔まではしっかりと見られなかっただろう。適当にはぐらかすとまた仕事を再開した。 「終わったー…」 ようやく溜まっていた仕事も終わり、うんと腕を伸ばす。北園も終わったようで、真似するように腕を天井に向かって大きく伸ばした。 「お疲れ様、手伝ってくれてありがとう」 資料を纏めると北園の方へと歩みを進めた。早くも帰り支度を済ませていた北園は、気にしないでくれというかのように笑いながら頷いた。

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